↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
598/615

ナッチェは意思表示する

ギルドからの帰り道。

閉められたままのファイヤー亭。

ナッチェの喜びは消え失せる。


シャアリィとアイシャは、それに気付いても沈黙を守る。

ナッチェの冒険の終わりを決めるのは、自分たちの役目ではない。

素通りする後味の悪さを抱えたまま家の前に着けば、待ち人がいた。


エドワードとエレナだ。


「ちょっと時間いいか?」


ぶっきらぼうな声で、エドワードが求めたのは対話の機会。

シャアリィも、アイシャも、それは当然のことだと知りながら返答をナッチェに委ねる。


「ナッチェ、どうする?」


アイシャが問えば、最初から覚悟を決めていたようにナッチェが、


「構いません、ですがファイヤー亭には行けません」

「何処か別の場所なら」


シャアリィが指差すのは自宅の扉。


「エドワードたちがよければ、うちでいいじゃん?」


シャアリィの提案に、エドワードとエレナは顔を見合わせて頷く。


「じゃあ、邪魔するぜ」


・・・


これが初となるエドワードとエレナの英雄宅訪問。

玄関でブーツを脱ぐという独特のスタイルから、気圧される。

清掃の行き渡った廊下、階段。

まるで高級ホテルのような半回廊。


ナッチェが応接室の扉を開けて、ここが既に自分のテリトリーであることを暗示する。

シャアリィとアイシャは、客人に大きなソファを譲り、少し離れた場所に冒険道具のアレコレを置く。

ナッチェもそれに倣い、その傍に自分の装備品を置く。


「お茶?お酒?それとも冷水?」


シャアリィが皆にリクエスト聞き、アイシャも一緒に話し合いのテーブルの準備をする。

落日前、それも冷静な話し合いをする、その覚悟を示すようにエドワードは冷水を選んだ。

テーブルに並ぶティーカップとグラス。


シャアリィの、


「さぁ、どうぞ、聞きましょう」


という声で、皆の視線がナッチェに集まる。

開口一番、厳しい声を出したのはエレナだった。


「ナッチェ、帰りなさい」

「なんてことをしてるの?」

「私達がどれだけご主人、女将さんにお世話になったかわからないの?」


ナッチェは唇を噛み締めた後、


「納得出来るまでは帰りません」

「恩を仇で返すような酷いことをしていることは承知の上なのです」

「自分勝手で周りのひとを傷つけていることも、迷惑を掛けていることも、考えました」


エドワードが厳かに、


「シャアリィとアイシャがいなきゃ、何にも出来ないだろ?」

「幸せに生きられるのに食み出し者の真似事なんて、何の意味があるんだ」

「俺は恩とか義理とかそういうことが言いたいんじゃない」

「自分で出来る領分から外れてるから文句を言いにきただけだ」


シャアリィも、アイシャも、フォローしない。


「エドワードさんの言う事は常識として当然なのです」

「でも、意味もあるし、真似事でもないのです」

「英雄殿の威を借る卑怯さも、恩義に砂を掛ける無礼も、承知」

「・・・ただ、私は自分の限界を知り、自分の夢を叶えるという我儘のために皆さんを傷つけ、迷惑を掛けているのです」

「馬鹿でも、傲慢でも、恩知らずでも、誹りは受けるのです」


エレナは涙を流し、エドワードは言葉を探す。


「迷宮じゃなきゃダメなのか?」

「鍛錬なら付き合うし、魔石だって買ってやる」

「お前が危険に踏み込む意味がわからない」


ナッチェは冷静な目で今日の体験を口にした。


「怖かったです」

「逃げ出したかったです」

「下手したら死ぬって思ったら脚は竦んで、目から涙も溢れました」

「戦えない私が出来ることはお二人の邪魔をしないように耐えることだけ」

「そんな場所でしか学べないことがあります、ありました」


最初の冒険を生き延びたという誇りと、それが自分の力ではないという欠損、それでも得るものがあったという結果。

その言葉を聞けば、エドワードも黙るしかない。


「わかった・・・俺の言いたいことは一つだ」

「死ぬな、死ななきゃ俺がなんとかする」

「俺の見てきた景色、お前にも見えたなら、俺には何も言えねえ」


そこに残されたのは、エレナの啜り泣きだけ。

ナッチェは心に刺さる姉の嗚咽にも耐える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。