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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
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ナッチェは戦慄する

「アレはなんなのです?」


三人の目の前にあるのは幅広になった一本道の通路。

その地面の波打つような凹凸に忍ぶ沢山の気配。


「斥候にとって必要なのは、音だけじゃないよ」

「観察眼も重要だ」

「あそこに何がいると思う?」


そうアイシャに問われた所で、ナッチェにわかるはずもない。


「一番怖いのは敵の正体が見えないこと、そして初めて見るもの」

「それが自分の命に指を掛ける時、我々はこう呼ぶ」

「初見殺し、と」


恐怖に顔を引き攣らせたまま、ナッチェはアイシャを見つめる。


「安心しろナッチェ」

「私達はアレを知っているし、私達が相手にするには小物もいいところ」

「だが、初心者には落命必至の強敵だ」

「さぁ、やるぞ」


アイシャは一番手前の盛り上がった土に掌ほどの大きさの石を投げた。

石の命中に反応し、土の中から人の大きさと同じくらいの体躯を持った八本足の魔物が飛び出てきた。


「ぴぎゃっ」


悲鳴を上げるナッチェの前で、シャアリィのダガーが氷結で光る。


「貫け!」


美しい氷の槍が八本足の魔物を串刺しにして、一撃で仕留める。

胸を撫で降ろすナッチェの耳に信じられない言葉が聞こえた。


「じゃあ、本番と行こうか」


それはアイシャからシャアリィに出された殲滅命令。

シャアリィは盛り上がった土に、次々と氷の矢を放つ。

致命に至らせるには足りず、土の山から顔を出した八本足の魔物がシャアリィに襲い掛かる。

ナッチェの僅か一メートル先の場所で、琥珀の魔女の誘導殲滅が始まった。


「散れ!」


複数の敵に射出される氷の散弾銃は、防御と攻撃を兼ね備えた暴力。

それを受けてもまだ動いている個体は、アイシャの三節棍で始末される。


「ナッチェ、私の武具の間合いに入るな」

「シャアリィの射線に入るな」

「そして戦いを見逃すな」


アイシャの指示に従おうにも、身体が言うことを利かない。

足は竦み、手は震え、視線が涙で滲む。


「りょ、了解しました」


折れそうになる膝、挫けそうな戦意。

目の前の殺戮も怖いが、巨大な蜘蛛のモンスターの群れはもっと怖い。

その時、一匹の蜘蛛がシャアリィに向かって何かを吐いた。


シャアリィはそれを布に包んだままの杖で防ぐ。

粘膜質の糸、蜘蛛が吐くならば当然、巣網に使うためのスパイダー・ブレス。

蝶のように絡め捕られる未来が、ナッチェの頭を過る。


「解けろ!」


まるで、飴細工が固まるように一瞬のうちに砕かれるスパイダー・ブレス。

シャアリィだからこそ破壊可能だが、アイシャや自分が受ければ、大変なことになる。

勿論、アイシャならば造作もなく躱すだろう。

つまり、自分だけがコレとは戦えない。


激しい戦闘を前にしても、戦闘力のない自分はただ身を守りながら、足手纏いにならないように振舞うしかない。

誰かが敗北すれば、パーティの生存率は格段に落ち、それが致命的な失着となる。

ナッチェはそれを今、体験している。


五匹、十匹と地面に転がる蜘蛛の骸は増え続け、それが三十に達しようとした時、戦闘は集結した。

ナッチェは、視覚と聴覚を総動員して、周囲の魔物の気配を探る。

静寂・・・それでも自分の未熟な技術を信頼できるわけもなく、緊張したままでアイシャの顔を見る。


「終わったね」


と、アイシャがシャアリィに同意を求めれば、シャアリィも、


「ええ、相変わらず数だけは多い」

「さぁ、ナッチェ出番だよ?」

「ナッチェ?」


すぐに返答出来ないナッチェは涙目でシャアリィとアイシャを交互に見やる。


「りょ、了解しました」

「魔石の他に必要な素材はありますか?」


ナッチェにしてみれば、アース・スパイダーは狂暴かつ強敵。

ならば利用価値のある素材も持っているのではないかと思ったのだ。


「魔石だけでいいよ」

「数が多いから、私も手伝うね」


シャアリィは自身のダガーをナッチェに見せ、優しく微笑む。

そしてアイシャが告げる。


「この魔物はアース・スパイダー」

「レベルは今のナッチェと同じくらい」

「つまり、一対一でやりあって、死ぬか生きるかという相手」


感じていた恐怖が説明されれば、尚更、ここに立っている自分が場違いだと気付く。

アレックスやオルチェは正しかった。

迷宮に入るという意味を思い知らされた。


それでもナッチェの夢は止まらない。


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