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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
594/620

ナッチェは冒険者章を得る

午前九時。

少し遅めの起床、そして眠気覚ましの珈琲。

シャアリィは紙袋に自分の衣類詰め、ナッチェに渡す。


「私と大体、体格同じだから使えるでしょ」

「今更ファイヤー亭に荷物取りに帰るわけにもいかないし」

「四階のサンルームの横に洗濯機があるんだ」

「で、干すならサンルームの中ね」

「風が強い時もあるから、外に干すと飛ばされちゃうよ?」


見覚えのある服も、ない服も、そして少し大人びた下着も。

超がつく金持ちであっても、新品を買い与えるようなことはしない。

それはシャアリィの哲学であり、欲しいものがあれば戦って勝ち取れという意思表示でもある。


「ありがとうございます」

「では、早速・・・」


アイシャがナッチェを制止する。


「いや待て、今日は今から冒険者ギルドに行くんだ」

「お洗濯するような時間はないよ?」


冒険者ギルド、と、いう単語にナッチェは耳を立てる。


「ふぇ?」

「私も登録するのですか?」


それが必要な理由をアイシャが説明する。


「ああ、ナッチェも登録しておいたほうがいい」

「地域冒険者証は、自分が所属する領地や階級を証明する公的な身分証明書」

「つまり、それなしで旅に出れば、きみは身元不明滞在者(アンノウン)

「行動を著しく制限されるし、毎回、衛兵と面倒なやりとりをしなくちゃならない」

「遅かれ早かれだから、作っておくべきだよ」


と、自分の冒険者章をずらりと並べて見せる。

アーシアン、レリットランス、グリーンノウズ、エンダーベルト、イルオールド、ザグレブホーン。

その中でも、踏破者の記載や名有り討伐者の記載、アーシアンとザグレブホーンの地域冒険者章には特記欄にドラゴン・スレイヤーの文字がある。


「うわ・・・本物です」


身分証明書にして履歴書。

世界を駆け巡った英雄の軌跡。

当然ながらナッチェも冒険者証が欲しくなる。


「わかりました、急ぎましょう!」


勝手知ったる我が街、『黒猫のテラス』の斜向かい。

昨日までシャアリィとアイシャの後をついて歩いていたナッチェが先頭を歩く。

その勢いも扉の前まで。

しょうがないなぁと、シャアリィが扉を開ける。


「あら、お二方、お久しぶりですね」

「マスターと面会?それとも他の用事ですか?」


受付嬢が愛想よく対応する。


「この子の地域冒険者章の発行をお願いします」


少しばかり礼儀正しく、シャアリィがナッチェを前に出す。


「おや、ファイヤー亭の黒猫ちゃんじゃないですか」

「冒険者始めるの?」


昨晩の酒場を思い出し、ナッチェは大きめの声で答える。


「はい、まだ何も出来ない新米ですが、宜しくお願いするのです」


受付嬢はにやりと笑い、ナッチェの前に申請書を置いた。


「記載できる所は全て埋めてね」

「わからないことがあれば、面倒くさいからドラゴン・スレイヤーさんたちに教えて貰ってね?」


別に他に仕事があるわけでもないのに、面倒だと平気でいう受付嬢。

抗議をするにも時間も手間も惜しい。


「了解しました」


書面を見れば、書けない所はただ一つ、職業欄。

アイシャがそれを指導する。


「ナッチェは短剣使いに分類されるから、そこは短剣職(リッパー)って書いておけばいい」


腰のホルスターに固定された自身の相棒を手で確かめて、ナッチェはアイシャの言う通りに記入した。

そして待つこと十分程で、真新しい地域冒険者が発行された。


「はい、黒猫ちゃん」

「私からのアドバイスはひとつだけ」

「命大事に」


その言葉は、シャアリィやアイシャから聞かされるよりも、ずっと重みがある。

自己責任という分かりやすく冷徹なルール。


「肝に銘じておくのです」


嬉しいはずの冒険者章が、酷く物騒なモノに見えたナッチェだった。


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