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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
592/620

ナッチェは酒を飲む

混み合う酒場。

ここは冒険者の間では結構な人気店『円卓』。

序列を気にする冒険者は席順程度で揉め事になる。

この店のテーブルは円形・・・つまり、どこが上座か分からない。

きっちりと四角四面で全ての席に序列がある貴族のテーブルとは正反対。

そう言えばその貴族でさえもお茶会に使うテーブルは丸い。


「よお、琥珀、白銀、こんなとこで何してる?」

「戦闘団でも組む予定か?」


髭面の一見ならず者風の男、名はゴメス。

シャアリィとアイシャよりもかなり年上だが、アレックスやオルチェよりは若い。


「何って?」

「普通にごはんとお酒だよ?」

「あんたみたいな奴はうちの子の教育に悪いからどっかいきなよ」


シャアリィが辛辣な言葉をゴメスに浴びせる。

だが、まるで当然のようにゴメスは笑いながら、


「ははは、違いねえ」

「じゃあな!」


と、気分を害することもなく立ち去る。

その様子にナッチェは胸を撫でおろす。

テーブルについたものの、店員が注文を取りにくる気配はない。


「店員さん、遅いですね」


と、ナッチェが言えば、アイシャが笑う。


「ここじゃあ待ってる奴は、酒も食事もありつけないよ」

「近くを通った時に捕まえるか、大声で叫ぶんだ」


それの意味する所、コミュ障は冒険者に向いていない、と、いうことだ。

酷く当たり前で、それでいてハードルが高い。

シャアリィも、アイシャも、動いてはくれない。


「すいません、注文です!」


ナッチェは声と勇気を絞り出し、やっとの思いで給仕の女性を捕まえる。

不愛想な女性が止まり、三人の腰掛けるテーブルに注文を取りに来た。


「どうぞ?」


シャアリィも、アイシャも、素早く注文する。


「麦酒、サラダ、チキンは揚げたやつ、パンは小さめ」

「麦酒、サラダ、蒸し魚のハーブ添え、ソーセージの盛り合わせ」


そこで一度止まると、ほんの数秒で給仕がイラつき始める。


「お嬢ちゃんは、まだ、決まってないのかい?」


冒険者でもない中年女性の声に威圧され、ナッチェは泣きそうになる。


「麦酒、ソーセージ、パンとアイスクリーム」


最後のアイスクリームで給仕は顔を緩ませ、


「あいよ、混んでるから酒だけ先に出すよ」


と、厨房に向かって歩き出す。


・・・


シャアリィが悪戯っぽく、ナッチェに問う。


「ファイヤー亭は親切で丁寧、その上、何でも美味しい」

「ここの麦酒は・・・」


アイシャが言葉の途中でシャアリィを遮る。


「飲んでみればわかるさ」

「私達が何から何まで先周りしちゃ、教育に良くない」


運ばれてきた麦酒のジョッキは随分と年季が入っており、誰かが齧った跡さえある。

それを持ち上げてぶつけ合う。

ナッチェの顔に、麦酒の泡が飛ぶ。


「新米冒険者に」

「幸運の黒猫に」


と、シャアリィとアイシャがナッチェをみやれば、ごくりと唾を飲み込んで、


「ど、どらごん・すれいやーに」


と、可愛らしい声で恥ずかしがりながら応じる。

ヒトから放たれる熱、それも殆どが成人男性で大きな体格。

初めて見る冒険者たちの世界。

シャアリィも、アイシャも、ここではまるで戦場に咲く可憐な花。

麦酒を一口含めば、苦く、薄い、湿気た味。

それでも乾いた喉に染み渡る。


「これは酷いお酒ですね」


その感想を待っていたと言わんばかりの満面の笑みでドラゴン・スレイヤーたちは揃って手を叩く。


「そう、まさに安酒!」

「でも、これが冒険者の今日の報酬で、明日の活力」


シャアリィの言葉に乗っかって、アイシャも罵詈雑言。


「ジョッキはぶつけすぎてぼろぼろ、周りはむさ苦しくて、おまけに目が合うだけで難癖付けられる」

「トチったやつも、うまくいったやつも、ここで酒を飲む」

「冒険者は余すとこなく馬鹿の吹き溜まりさ」

「私も、シャアリィも、勿論、同類」


その荒々しさに、ナッチェも理解を示す。

生き残ること、戦って金を得ることは甘くはない。

それを肌で感じたナッチェだった。


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