ナッチェは装備を選ぶ
初めて手に取る武具の重さにナッチェは小さな恐怖を覚える。
ヒトは弱い、と、理解する。
知恵の積み重ねで武装しなければ魔物には勝てないのだ。
それが分かるだけでも、ナッチェの素養はずば抜けている。
「私は戦闘には不向き・・・役割は魔石の採取、そして斥候」
「まだ経験が全くないので、斥候も今は出来ないのです」
「それなら身軽に動ける防具、魔石の採取に特化した武器、です」
ナッチェの身体には皮の鎧さえ重い。
シャアリィやアイシャの戦装束を思い浮かべれば自然と答えに辿り着く。
「皮の当て物と、ダガー・・・必要にして十分、と、思うのです」
ナッチェの最強の武器は身体能力ではない。
観察、そして思考、経験次第では超一流の斥候になれる素養がある。
アイシャはあえてそれをナッチェに伝えない。
「じゃあ、ダガーはどれがいい?」
ナッチェが少し迷った末に選んだのは、ハンティングナイフだ。
それはアイシャが思う最適解二つのうちのひとつ。
「これなら魔石だけでなく、解体や素材採取にも向いているのです」
両刃のフェアバーンは、採取と最低限の戦闘向き。
片刃のハンティングナイフは、シャアリィのソードブレイカーと形状は似ているが、採取に特化したもの。
「うん、いいね」
「慣れるまでは少し重いかもだけど、非力なナッチェにはそれも利点の一つ」
アイシャは、ダガーの手入れに使う金属スティックと火を起こすためのファイヤースターターを合わせて購入するように勧めた。
当て物と合わせて銀貨八十五枚。
それは初心者の最初の装備にしては少々贅沢だが、逸脱した成金装備でもない。
シャアリィが次の行先を示す。
「武具の次はね」
「戦闘用のブーツとグローブ」
「それと髪を降ろしたままじゃだめだから、髪留め」
「食事とか雑用のアレコレで使うツールナイフ」
「それと装備を収納するベルトホルスター」
見慣れていたはずのシャアリィとアイシャの姿が、一際、輝いて見える。
手品のように何でもすぐに目の前に出してくれる魔法使いの裏側、その七つ道具を教えて貰っている実感。
ナッチェは自分の選択が失着でなかったと、理解する。
「冒険者ってすごいんですね」
「私、今、とっても感動しているのです」
アイシャは少しばかり遠い目で、
「きみを育ててくれたアレックスとオルチェ、そしてエドワードも冒険者だ」
「それも一流の冒険者」
「きみは知らないうちに冒険者の世界に足を突っ込んでいた、そういうことさ」
ナッチェの表情が引き締まる。
「冒険は準備が大切」
「武具が揃っただけでは始められない」
「私はもう迷わないのです」
・・・
静穏性に優れた柔らかなブーツ。
その長所を生かすために犠牲になるのは耐久性。
ツールナイフは、小さな鋏や缶切り、コルク栓抜き、鑢を選ぶ。
ベルトホルスターはダガーを固定し、小物入れを左右に一つづつ。
グローブは指ぬきの厚手。
地図を汚れや破損から守る丸筒とキャップ付きのペン。
そしてコンパス。
次々と揃う冒険の為の大量の装備。
それはまるでピクニックかキャンプに出掛けるような道具だけに、ナッチェの胸は躍る。
「一人で冒険する、旅するっていうのは大変だろう?」
「仲間がいればいろんな装備を分担して持てるし、交代で休息だって取れる」
「単独行での旅、迷宮は危険なんだ」
アイシャの声に、シャアリィがちろりと舌を出す。
「そうよ」
「今回は私達が仲間だけれど、ナッチェの旅や冒険には相方が必要なんだからね」
「じゃあ、ご飯して、今日は帰ろうか」
「うち、ベッドひとつしかないけど、ベッドに出来るソファもあるから安心してね」
「温水の出るお風呂もあるし!」
シャアリィの豪華な誘惑の声は、ナッチェの耳には遠い。
ナッチェの頭の中は、既に冒険で一杯だ。




