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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
590/616

ナッチェは困惑する

アレックスの不機嫌は頂点に達し、店を臨時休業にした。

オルチェは泣き崩れ、食事も喉に通らない。

ナッチェは自分の選択の最初の結果を見つめ、顔を曇らせた。


まるで人攫いのようにシャアリィが告げる。


「ナッチェは当面、私が面倒を見るよ」


言い残し、ナッチェを連れてシャアリィとアイシャはファイヤー亭を後にする。

シャアリィは、ナッチェに語り掛ける。


「あなたの選択、受け取った」

「でも、ちゃんと覚えておいてね?」

「あなたは自分の選択でひとの心を傷つけたんだ」

「あなたは必ず生きて戻って、それを精算しなくちゃならないんだよ?」


そして、アイシャの前に出て後ろ歩きしながら微笑んで詫びる。


「勝手なことをしてごめんね」

「私はパーシモンを殺し、アンソニーを傷つけた」

「エゴの失敗は、エゴを守ることでしか精算出来ないって思ったんだ」

「これも、私のエゴなんだけどさ」


アイシャは、仕方ないねというように小さなため息を吐く。


「暫くはファイヤー亭にも行けなくなった」

「シャアリィはもう少し、後先を考えてね?」

「長い時間を掛けてナッチェを守り育てたのは、アレックスとオルチェだ」

「私達の選択は、本来、やってはならないことをした」

「それは忘れないで?」


その遣り取りを聞きながらナッチェは思う。

皆を幸せにしたかった自分の夢が、アレックスとオルチェを傷つけ、英雄たちに迷惑を掛けている。


(ごめんなさい・・・こんなことをしたかった訳じゃない)

(私、間違っているのですか?)


言葉にするには遅すぎる、最初の選択の後味の悪さ。

それをアイシャが塗り潰す。


「さて、決めたことをアレコレ言ったところで詮無きこと」

「ナッチェ、装備を買いにいくよ?」


選択したならば、立ち止まるべきではないと白毛獅子が告げている。


「あそこにしようか?」


アイシャが選んだ武具店は、結構な店構えの高級店だ。


「さて、ナッチェ、予算を聞こうか?」

「手持ちがないなら貸してもいいが、必ず返してもらうよ?」

「武具は自分の命を預けるもの」

「それを肝に銘じて選ぶんだ」


・・・


店に入れば所狭しと並ぶ武器、防具。

その圧倒的なバリエーションにナッチェは目を奪われる。


「らっしぇ!」

「ドラゴン・スレイヤーがこんな湿気た店に何の用だい?」


店主は、ちょこちょこ動く異物を見て察する。


「ほお、弟子の装備ってことか」

「まぁ、好きなだけ見てってくれよ」


ナッチェの鋭敏な耳が『弟子』という言葉に反応する。

シャアリィとアイシャを交互に見やり、


「私、弟子・・・ですか?」


と、言えば、アイシャはケラケラと笑って、


「今は未だ、姪っ子みたいなもんだよ」

「私達の弟子になるには、ちょっとばかり背伸びしてもらわなきゃね」


ナッチェはアイシャの言葉を噛み締める。

自分は未だ弟子になる資格さえないのだ。

英雄の加護の内側にいるうちは当然のことだが、ちっぽけな闘争心に火を点ける。


「お二人は弟子をとったこと、あるのですか?」


シャアリィも少し吹き出して笑う。


「私達の弟子なんて、命が幾つあっても足りないよ?」

「名を上げれば上げる程に面倒は増えるんだ」

「キャラバンでは絡まれるし、挑戦者はやってくるし」

「ギルドに行くだけで肩は凝るし」

「ナッチェは私達の弟子になりたいの?」


そう、問われれば、端的に、


「恐れ多いというものです」


と、少ししょげるしかなかった。

ナッチェは冒険者の最低条件、『弁える』も、備わっている。


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