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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
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ナッチェは決断する

「ナッチェ、迷宮に何を求めるんだ?」


アレックスの問いは、ナッチェに向かった。

核心は術式獲得のための魔石・・・土石属性か、風雷属性のもの。

百個もあれば初めての魔石からの術式取得が出来るだろう。


「危険な場所を経験することと、魔石・・・です」


ナッチェの正直な答えにアレックスが提案する。


「お前らのために結構な金になる魔石を預かってる」

「それを換金して、必要な魔石を商業ギルドで買えばいいじゃねえか」

「わざわざ危険な場所に行くなんて、お前らしくもない」


シャアリィとアイシャは以前、黒猫姉妹の有事に備えて、アレックスに亜竜の魔石を贈っている。

全てを換金すれば金貨千五百枚以上の一財産だ。


「そうだよナッチェ」

「こんな言い方なんだけど、アンタは普通に生きられるんだ」

「結婚して所帯を持てば、すぐに新築の家を買える準備もある」

「それの何が不満なんだい?」


冒険者になりたい、と、子供が言い出したら、裕福な親はきっと、皆、こういう反応をするだろう。


「ご主人、女将さん・・・親不孝なのは承知なのです」

「それでも、私は・・・」


英雄に魅せられた者に訪れる病。

自分の可能性への挑戦。

その先が、絶望であっても、破滅であっても、やってみなけりゃわからないという無謀。


「アイシャ、シャアリィ・・・」

「お前らがナッチェを連れてくなら、俺はお前らと絶縁する」


アレックスが、静かに告げる宣言は重い。

だが、シャアリィは怯まない。


「アレックス、そういうのを卑怯って言うんだ、過保護って言うんだ」

「問題をすり替えないでよ」


アレックスも自分でわかっているだけに、頭にくる。


「うるせえ」

「お前らと俺らは出来ることが違うんだ」

「何でも出来るお前らに俺の気持ちなんてわかんねえよ!」


アイシャは静かに告げる。


「ナッチェ、これが今、きみという存在に対する皆の思いだ」

「冒険の対価は安くない」

「冒険者にならずとも、迷宮に潜るっていうのは、これだけの重みがある」

「それでも、自分のエゴを貫けるかい?」


旅にも出られない、迷宮にも行けない、心は燻ぶったまま。

それは嫌だ。

でも、自分の決断が周りに迷惑を掛ける、人間関係を壊す。

それも嫌だ。


「どうして・・・私のやりたいことは難しいのです?」

「全部が大切じゃだめなのですか・・・」


白毛獅子の冷酷な眼差しがナッチェを射抜く。


「大人になるっていうのは選択の連続だよ」

「全部?」

「はっ、それこそ冗談かと思うぞ、ナッチェ!」


目の前が昏くなる。

自分の味方だと思っていたアイシャから浴びせられる痛烈な言葉。

立ち塞がる現実。


だが、天使の声でシャアリィが告げる。


「ナッチェの一番を選ぶだけ」

「私はナッチェの決定を支えるよ」

「それがあなたたちを助けた者の業だもの」


今、シャアリィはアイシャのためにナッチェを守るわけではないと言った。

何時でもアイシャを一番にしてきた琥珀の魔女が力を貸すと言ってくれた。

その福音がナッチェの勇気を奮わせる。


「ご主人、女将さん」

「私は迷宮に行ってきます」

「親不孝でごめんなさい」


最初の選択。

それはナッチェの最初の反抗。

ナッチェの夢は止まらない。


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