ナッチェは頭を抱える
レリットランスについてから今までナッチェが貯めた金貨は二十一枚。
それはアーシアン連合国全土を回るには、かなり無理がある資金額。
そして何よりアレックスとオルチェの許可が出ない。
「私だけでは良い考えが浮かばないのです・・・」
結局、ナッチェはシャアリィとアイシャに相談することにした。
彼女達ならばきっと何でも知っている。
こういう時どうすればいいかも、きっと、教えてくれるはずだ。
「あら、ナッチェさん」
「副商会長たちでしたら商業ギルドに向かわれましたよ」
返答のない扉の前で佇んでいると、二人の居場所をキンバリーが教えてくれた。
ナッチェは礼を言って、商業ギルドに向かう。
「ああ、マーメイドのお二方なら、職人ギルドに行きましたよ?」
擦れ違い・・・シャアリィとアイシャが忙しく動いていることを知る。
「ちょっと惜しかったな、さっき、ここを出た」
「領主府に行くとか言ってたぜ」
またしても・・・追い付けない。
まるで、自分が彼女たちのようにはなれないという暗示。
それならば、と、ナッチェは追うことから待つことに態度を変える。
『黒猫のテラス』のオープンテラス席。
街中を移動する二人を見つけるのは難しくても、衛兵通りには高確率でやってくるはず。
その狙いは見事に的中した。
シャアリィとアイシャはテラス席に座るナッチェを見つけた。
「あら、ナッチェ、ひとり?」
「一緒にお茶する?」
額の汗を拭う間もなく、シャアリィとアイシャに無事遭遇出来た。
「はい、お二人を探していたのです」
「ご一緒させて下さい」
アイシャは、ハンカチをナッチェに渡して、
「いいよ、話を聞こうか」
と、優しく微笑んだ。
・・・
シャアリィは優しい笑みのまま、
「で、ナッチェは旅がしたいの?パティシエールになりたいの?」
「旅とパティシエールは両立しないよ?」
「修行は一箇所に留まってじっくりやったほうが身になるし、そうすれば旅が出来なくなるでしょ」
矛盾を突き付ける。
それをアイシャが補強する。
「私達は好きで旅をしたわけじゃないんだ」
「求めるものが沢山ありすぎて、それを一つづつ集める旅だったんだよ」
「一箇所に集まってるなら、旅をする必要なんてない」
ナッチェのふわふわとした理想がぺしゃんこになる。
「・・・私、まだ子供でした」
「ただ、美味しいすいーつを作れるようになって、皆さんに食べてもらいたかった」
「幸せを返したい、そればっかり考えてた」
「夢・・・って、計画が必要なんですね」
二人の英雄はナッチェの頭を撫でる。
「ナッチェは賢いね」
「それに可愛らしくて、品もある」
「きっと誰もが力を貸してくれるよ?」
シャアリィの言葉をアイシャが正確に補う。
「金も、コネも、運も、本気の夢なら、それを総動員するんだ」
「きみには選択の自由もある」
「ただの意地で独りで飛び出すようなやつには夢なんて叶えられないよ?」
「最初の一歩を選ぶのはナッチェ」
「それが決まったなら、私達はきみをバックアップする」
「冒険がしたいなら、最低限の装備と技術がなければ死ぬ」
「旅に出る前にそれを整えるんだよ」
現実は甘くない。
それでもナッチェの夢は止まらない。




