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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
スピンオフ・黒猫の冒険編
586/614

ナッチェは旅に出たい

それは必然の運命。

冒険者に救われた身であれば、その瞳にも同じ熱が宿る。


「ご主人、女将さん、お願いがあるのです」


愛らしい癖っ毛を指先でいじる仕草。

それは不安を隠す時のナッチェの癖。

十三才で保護されてから、三年。

今やファイヤー亭の看板とも言える黒猫獣人姉妹の妹。


「私、ぱてぃしえーるになる旅に出たいのです」

「つきまして、お暇を頂きたく・・・」


アレックスも、オルチェも、その宣言自体は既に聞いている。

だが、無謀とも言える発言であり、賢いナッチェならそのうちそれを理解するだろうと思っていた。


「なぁ、ナッチェ」

「旅ってのは甘くないぞ?」

「あいつらだって、二人だからやれてたんだ」

「同行者もなしに、行かせるってのは流石に無理がある」


アレックスの言い分は至極真面。

この男がまともなことを言う時、それは正論。


「ああ、一人旅は許可できないね」

「アンタがどれだけ賢くても、世間ってのは厳しいんだ」

「アタシらだって冒険者時代は四人パーティだった」


二人はナッチェの行く手を遮っているわけではなく、ただ、親心として反対している。

頭ごなしにダメだと言われてるのではない。


「一人旅が過酷なことは承知してます」

「でも、やりたいことを抱えたまま動けないのは、とても辛いのです」

「良いアイデアを考えますので、前向きに検討して頂きたいのです」


反対されるのは承知の上。

それでも旅に出たいのだ。

この街には一流のカフェテラスがあるけれど、ナッチェの目標を叶えるにはそれ以上の修行先が必要であり、それを探したい。

でも、それだけではない。


憧れのドラゴン・スレイヤー。

あの二人の煌めきをナッチェも求めている。

でも、シャアリィとアイシャの名を出せば、到底、許可は出して貰えない。

悪い言い方をすれば、あの二人の覚悟と実績は化け物。

人間が出来る範囲を完全に逸脱した本物の英雄。

領主府通りにお遣いに行くのとはわけが違う。


ナッチェは、店の二階の自室で、転がりながら思案しているうちに眠ってしまった。


翌日、昼過ぎ。

からんからんと扉のベルが鳴り、賑やかな声が響く。


「たっだいまー、シャアリィ戻りましたー!」

「おみやげ、何時もチョコだからゼリーにしたよ」


少し間をおいて、アイシャの凛とした落ち着いた声が続く。


「ただいま」

「そろそろ春だね、桜の蕾が育ち始めてる」


英雄の帰還。


「おう、耳あり、耳なし、適当なとこ座ってくれ」

「無事、全部回れたみたいだな」


アレックスは通常運転だが、オルチェは少々機嫌が悪いようだ。


「おかえり、旅、楽しかったかい?」

「それ冷やしとくから、夜、一緒に食べようじゃないか」


シャアリィが敏感に反応する。


「アレックス、オルチェ、また、やらかしてるの?」


図星を言い当てられ、二人はそれを認める。


「まぁな」

「でも、今回のはたいした問題じゃない」

「おまえらに解決を任せるべきことじゃないんだ」


と、アレックスが言えば、オルチェも、


「そうさね、別に仲違いしてるわけじゃない」

「二日酔いみたいなもんだよ」


シャアリィは「ふぅん」と、問題を棚上げして、


「じゃあ、私達は少し家でのんびりするよ」


と、去っていった。


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