↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
記憶を探す旅編
585/613

何も失くしてなどいない

私はシャアリィに数歩遅れて、建物の前に辿り着く。

レンガ作りの建物は、まさに圧巻の大きさ。

だが、その建物の構造は酷く複雑で、その理由が度重なる増築のせいであると気付く。

シャアリィ曰く、レオパルドという人物は用意周到で抜け目のない経営の玄人。

それに加えて巨万の富を持つ大富豪。

経歴とあまりにも噛み合わない歪さに違和感を持つ。


「ドラゴン・スレイヤー帰還しました!」


最上階の役員室の扉に向かってシャアリィが元気に一声した後、それを開く。

そこにいるのは二人の成人男性。


「おかえり、英雄殿」

「冒険は如何だったかな?」


と、温和な笑みで迎えた男性は気品に溢れ、教皇と似たようなオーラを放っている。

どうやら、彼がエルドリッチ・レオパルドらしい。


「やぁ、タイミングがいいね」

「ちょうど新新特区の設計について話をしている所だったんだ」


もうひとり・・・赤い詰襟の聖衣・・・枢機卿じゃないか!

聞かされていた私達の協力者、ジョルジアット・フランシスコ。

とんでもない大物二人を実際に目にすれば、奇妙な親近感がこの身に湧く。


「アイシャ、難儀でしたね」

「シャアリィの手紙できみの事情は把握しています」

「さぁ掛けて、お茶でも飲んで寛いでください」


私が緊張していると察してくれたのだろうか。


「では、遠慮なく」


ふと、窓際に並ぶ二つの席を見れば、目の前のソファよりもそちらに座りたくなった。

それに気付いたシャアリィが、


「じゃあ、私達の椅子に座ろう」


と、視線の先の机に私の手をとって導く。


・・・


シャアリィの言った通り、上品な香りの珈琲とシュークリームが私達の座るデスクに運ばれてきた。

話をするには少々奇妙な位置関係だが、何故か落ち着く。


「きみにとって初めてのことはなるべく分かりやすく説明するよ」

「それ以外についてはアレだ、以前のように振舞う」

「遠慮されてはきみも居心地が悪いだろう?」


聖衣の男との距離感、シャアリィが二人を愛称で呼ぶ程の仲、それが私にも浸透する。


「フランコ、レオ、と、私は呼んでいたらしいね」

「わからないことだらけで面倒を掛けるが、宜しく頼む」


私も覚悟を決めて、礼節を少しばかり取り払う。

愛称で呼ばれた二人は、優しい笑みを浮かべ会話に戻る。


「リフター車両、完成間近だったよ」


と、シャアリィが言えば、レオは上品に手を叩き、


「あれが此処に来れば、陸送の準備が捗りますね」

「それに新新特区の建設に投入する前に問題の炙り出しもできるでしょう」


その言葉はやはり経営者のそれだ。

私は気になっていたことをレオに投げ掛けた。


「話の腰を折って済まないが、質問させてほしい」

「何故、この建物を建て直さず、増築という方法を選んでいるのか教えてもらいたい」


レオは、私の質問に少々驚いた顔で、


「さすがはアイシャ、と、いうことですね」

「私達の成してきたことを考えれば新築のほうが相応しい、そういうことですね?」

「本来であれば、そうしたいのも山々ですが、マーメイド商会は今やグリーンノウズ、否、アーシアン連合国の海の玄関の要」

「その鼓動を止めるようなことは出来ないからですよ」

「仮設事務所を造るにも、その機能の規模が大き過ぎて現状は増築という方法を取るのが最善でした」

「それに万一不況になって流通が減ったなら、新社屋の建設で人材需要を支えることも出来るでしょう」

「新社屋の建設保留は、そういう経緯です」


身震いする。

その圧倒的な責任感と先見性、それが建物の歪さの正体。

これがレオパルドという経済のドラゴン。

理知的であり、カジノで財をなした人物とは思えない価値観。


「丁寧な説明、感謝します」

「あなたがマーメイド商会の長、私の上司であることを誇りに思います」


これは私の本音であり、お世辞ではない。


「アイシャ、私はきみの上司ではありません」

「肩書を貰ってはいますが、あくまで共同経営者、パートナーなのです」

「私も、ここにいる皆を尊敬していますよ」

「当代どころか唯一無二の冒険者、そして力を正しく使う枢機卿」

「同じ時代に生きる同志を私も誇りに思っています」


シャアリィが席を離れてくるくると回る。


「皆、アイシャの仲間だよ」

「私達は冒険担当、だから、皆、アイシャの痛みだって一緒に背負える」


その一言は、私の張り詰めた覚悟を優しく溶かす。


――― ああ、私は何も失くしてなどいない。


少しばかり眠り過ぎただけなのだ。

そして私は目を覚まし、同じ時間を歩き始めた。


アイシャ・セロニアスとして ―――






氷結のシャアリィ

記憶を探す旅編 終幕 ―――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。