私達の王城
その街は聖職者の巡礼地。
その迷宮はアンデッドの巣窟。
そこにある教会は、アーシアン連合国西地区の最高権威教会。
白い壁と青い海、緑風と熱砂、生者と死者。
伝説の魔人マーヴェリック・エルゴ・ダインの故郷。
・・・
アイシャにとっては初めての街、グリーンノウズ。
だが、その様子は噂や知識で知っているグリーンノウズとは全く異なる風景。
近代的な湾岸都市と歴史的な旧市街区が同居し、長い海岸線には沢山の商業施設が連なる。
「観光地の湾岸都市とは聞いていたけれど、私の知識と全然違うな・・・」
整備されたキャラバン発着場に降り立ち、海岸線を歩く。
アイシャの感想にシャアリィが答え合わせをする。
「ふふん」
「アイシャの知識では、見た目だけいいけれど何処か胡散臭くて警戒が必要なならず者だらけの街って感じだったでしょう?」
「その知識は過去のもの」
「この街の浄化でも私達は結構活躍したんだよ」
都市の治安向上に冒険者が絡むなんてことがあるのだろうか。
アイシャは訝し気にシャアリィに問う。
「どういうこと?」
問われて一から十まで話せば時間が足りないとばかりに、
「これから会う人達が教えてくれるよ」
「この街での一番の功績は、黒猫姉妹の保護」
「ナッチェをアイシャが拾ってきたのが始まりだったんだ」
話しているうちに、シャアリィとアイシャは港の管理棟に着いた。
二人を見るなり衛兵が敬礼をする。
「お疲れ様です」
「商会への訪問ですか、それとも治対の査察ですか?」
衛兵は、随分と緊張しているようだ。
アイシャはその理由がマーメイド商会副商会長という肩書にあると思ったが、『ちたい』というフレーズは理解出来ない。
シャアリィが衛兵に笑顔で答える。
「はい、お疲れ様」
「緊張しなくていいよ」
「事件じゃないし、面倒事の持ち込みでもない」
「今日は、レオの所に顔を出しにね」
衛兵の空気が変わり、アイシャが先ほどの問いの答えの半分を得る。
「まさか・・・本当に街の浄化に寄与していたとはね」
誇らしげにシャアリィがアイシャの頭に手を伸ばす。
「レリットランスだけじゃない」
「私達はこの街でもちょっとした英雄なのさ」
今更ながらにアイシャの心にまた時間の重みが圧し掛かる。
だが、それは悲壮なものではなく、再確認の楽しみの重みだ。
頭を撫でたシャアリィの手は何時ものように心地良く、その眼差しは優しい。
「ほら、あの建物」
と、シャアリィが指差す先にあるレンガ造りの巨大な建物。
それはグリーンノウズでは知らぬ者はいない大商会となったマーメイド商会の総合管理社屋。
大教会にも匹敵する建築物に、アイシャは驚愕する。
そして続くシャアリィの言葉に、更に驚かされる。
「あの建物の最上階」
「そこに私達の椅子がある」
「ようこそ、マーメイド商会グリーンノウズ本店へ」
「副商会長アイシャ・セロニアス殿」
シャアリィの顔は、まさに商会幹部に相応しい堂々たる風格。
そのシャアリィが指差す先、待っているのはカジノキングにしてマーメイド商会の長、大富豪エルドリッチ・レオパルド。
「いよいよ経済のドラゴンと対面だね」
アイシャの言い回しは言い得て妙。
敵に回せば喰らい尽くされること間違いなしの経済経営の化け物。
レリットランスで見た先進的な魔導車両が頭を過る。
「多分、上等な珈琲とケーキもあるよ」
「この海風じゃスパークリングワインはちょっと飲みたくないね」
傍らに見える巨大な船舶には、人魚の意匠。
シャアリィとアイシャはそれを横目にレンガの建物へと歩を進める。
「おかえりなさい、副商会長!」
視線が合えば誰もが大きな声で挨拶を投げる。
シャアリィの仕草を真似て、アイシャも軽く手を振ってそれに応える。
「レリットランスの家が『城』なら、ここは『王城』だね」
「キングへの謁見と洒落込みましょう」
旅装束で化粧もしていないのに、シャアリィはまるでプリンセス。
アイシャの目にはそう映った。




