冒険者の仁義
夕暮れ、何時ものように少し早めの野営。
シャアリィとアイシャも当然のように枯れ木集めを手伝う。
本来、乗車チケットを買っている乗客は、キャラバンの雑用を手伝う義務はない。
だが、皆が手伝えばその分早く焚火も出来るという都合、特に冬の野営では乗客も総出で枯れ木集めをするのは暗黙の了解。
「おい、不貞腐れてないで手伝え」
座り込んで黄昏ているのは、昼間、アイシャに黙らされた護衛冒険者。
それを窘めているのは恐らくは、護衛のリーダーだろう。
その男とアイシャの視線が重なった。
「今日は済まなかった」
「高名な冒険者の前で恰好付けたかったのだろう」
「護衛としての態度じゃない」
「リーダーとして謝らせてもらう」
仁義を通すものに対し、アイシャは追い討ちをかけるような女ではない。
「ああ、わかるよ」
「気にしなくてもいい」
「それより決闘なんて物騒なことにならなくて良かった」
「私から商人に苦情を出さないように頼んでおこう」
成程、根回しか。
迷宮踏破者と一介の冒険者では信用力が違う。
シャアリィやアイシャが苦情を申し出れば、このパーティは二度と護衛依頼クエストを受けることが出来なくなる。
「察してもらえて有難いよ」
「俺達はまだまだ弱い」
「強くなるため、日々の食い扶持にありつくための身だ」
「その方法が減るのは死活問題」
「あいつには説教しておく」
護衛冒険者パーティのリーダーは、ジム・フォルトナーというらしい。
ウィトプラナ出身、家は多少裕福だが妹を失ってから家庭が壊れて、自分は冒険者になったと言う。
「まぁ、この稼業に入る入り口なんて大体、良い出来事じゃないさ」
シャアリィもアイシャも小さく頷く。
アイシャは既に怒ってはいない。
「そうだね・・・私達も身に覚えがあるよ」
シャアリィも、ジムの背景を僅かばかり理解した。
誰もが似たような経緯で冒険者になるのだから、冒険者は皆、心に傷を抱えながら生きているのだ。
それがギルドでの奇妙な連帯感の始まりなのだろう。
・・・
シャアリィとアイシャにしてみれば、小競り合いなど日常茶飯事だし、言葉ではない嘲笑の眼差しなら毎回と言っていい。
そんなことをいちいち気にすれば、旅なんて出来るわけもない。
ただ、自分達に実害が及びそうな時には遠慮しないというだけの話。
「シャアリィ、よく我慢したね?」
そう、アイシャの驚きはシャアリィの自制心だ。
普段の行動や言動から読み取れるシャアリィはもっと衝動性があって、冷徹な少女。
躊躇なくポルシェンカの眼窩を抉るようなことも、理由があればやってのける。
しかも、今回、自分を守るという立場でありながら、それをしなかった。
「だって・・・殺してもお金にならないし、護衛を無力化しちゃったら私達が護衛の仕事しなきゃいけないでしょ?」
その返答にアイシャは笑ってしまう。
「ふふっ、違いないね」
「シャアリィは賢い」
アイシャの期待していた精神の成熟ではなく、合理、そしてやはり容赦がない。
突っかかった冒険者がたまたまツイていただけの話だ。
あのパーティリーダーなら、今頃、ちゃんと説教をしているだろう。
たまたま命拾いをした、と。
大量に買い込んだチョコレートとキャラメル。
十一日間の馬車の旅。
初日の夜は静かに更ける。




