キャラバンは西へ
いつも通りの衛兵の見送りに背中を押され、シャアリィとアイシャの乗るキャラバンは南のウィトプラナを経由し、目的地である西の街、グリーンノウズに向かう。
キャラバンの客車の中でも、シャアリィとアイシャは注目の的だ。
他の街ならいざ知らず、レリットランス発のキャラバン、迷宮踏破者にしてドラゴン・スレイヤーの二人が放っておかれるはずもない。
「今度はどんな冒険です?」
と、乗り合わせた商人に聞かれれば、
「友人たちに会いに行く旅ですよ」
と、シャアリィが愛想良く答える。
このキャラバンの旅程は十一日。
つまりは何度も野営がある。
二人はいつも通り、交代で仮眠を取りながら護衛の冒険者任せにしない自衛を怠らない。
「一杯如何です?」
と、誘われても、相手が気を悪くしないように丁寧に断る。
仕事でキャラバンに乗っている冒険者には、そのやりとりが少しばかり冷たく映る。
「旅は道ずれ」
「勧められる酒を断るとは、ドラゴン・スレイヤーも風情がないね」
護衛にそう揶揄された所で、シャアリィは狼狽えない。
何かあれば指先に氷結魔力を光らせ威嚇していた頃とは違う。
「ふふっ」
「旅では何が起きるかわからないよ」
「私達は誰かに自分の命を預けたりしないんだ」
「相棒の眠りを守るのは私の役目」
口調や表情は柔らかいが痛烈な返し。
「はっ」
「風情がない所か誰も信用していないってか」
「随分と舐められたもんだ」
一触即発の気配を漂わせる冒険者。
それでも尚、シャアリィは殺気を出さない。
「私達は乗客、あなたは護衛」
「客のアレコレに踏み込むなら、あなたに護衛のクエストは向いてない」
「それとも私との決闘をご所望?」
「私が我慢してあげてるのは、相棒と他の乗客のため」
「舐められても当然でしょう?」
引くに引けなくなった冒険者が吠える。
「いいだろう、売ったのは俺だ」
「遠慮なく買ってくれるなら、やろうじゃないか」
「そのかわり・・・」
言葉はそこで途切れる。
「私の相棒が気に入らないなら降りろ」
凛とした怒気すら感じさせない透き通った声。
さっきまで眠っていたはずのアイシャが、鵺斬の鞘を冒険者の鼻先に突き付ける。
その動きは誰の目にも映らない神速。
冒険者は揺れてもいないキャラバンの中で、腰を抜かす。
「わ、わかった・・・」
「俺が悪かった」
「勘弁してくれ」
殺意とは無縁の静かな牽制。
その圧倒的な存在感に屈服しないなら、それはただの愚か者。
商人は胸を撫でおろす。
護衛を雇った責任を負う羽目になる所だったのだ。
それも迷宮踏破者を相手に。
「ギルドには私から苦情を申し入れますので、ご容赦下さい」
「私が軽率に酒など勧めたのが発端」
「何卒お願いします」
商人の言葉に、鵺斬を下げるアイシャは愛想良く、
「絡まれるのは、私達の未熟」
「もう少し上手に断れるように知恵を絞ります」
「空気を悪くして済まなかったね」
と、優しく微笑む。
シャアリィは声を出してケラケラと笑う。
それは嘲笑ではなく、あまりにアイシャが以前のままのアイシャだったから。
「私のことになると、本気ね?」
「さすが相棒」
アイシャは少し顔を赤らめて、
「放っておくと人が死ぬでしょ」
「旅は始まったばかりなんだからね」
「面倒事は勘弁して」
そのしっぽは少しだけ不機嫌を示す。
シャアリィは起きてしまったアイシャの膝に頭を預け、
「じゃあ、大人しくするね」
と、満面の笑みを浮かべた。




