祝福の古代魔法
――― おふくろの味。
幼い日々に与えられるものは価値観の基準。
それがなければ、良いも悪いも決めようがない。
そして、母親が作る料理は、味覚の標準である。
標準とは平均ではない。
必要にして十分というバランスの上に成り立つもの。
だから、何時までも心に残り続け、愛され続け、安心する ―――
約束の安息日。
そのテーブルに振舞われたのは、少しばかり豪華な家庭料理だった。
ビーフシチュー、ハンバーグ、自家製のパン、そして素朴な器を満たすプリン。
そのひとつひとつは極めて丁寧に作られている。
エレナは言う。
「私達にはシャアリィさんのようなすごい魔法は使えません」
「だから、古代魔法?」
「つまりは自分達が知っている一番古い記憶を頼りにして作ったありふれた料理です」
テーブルに並ぶ料理はインパクトもなく、何処に行っても食べられるものばかりだが、シャアリィとアイシャにしてみれば究極の魔法に等しい。
「なんかね・・・涙が出ちゃうかも」
言葉少なにシャアリィは料理を味わう。
アイシャの反応は更に深い。
「ああ、いいね・・・じわりとくる」
「初めて食べるのに懐かしさのある味だ」
「ほら、この人参・・・星形だよ」
「子供の頃、母がきまぐれ料理を作る時にはこういう工夫をしてくれたんだ」
アレックスやオルチェ、エドワードは、親に見放された子供だった。
それでも、この料理を食べれば懐かしさに胸が痛む。
「ああ、確かにこれはじわりとくるね」
アレックスが隣に座るオルチェに視線を向ければ、
「よく手伝わされたよ・・・でも、手伝った時は不思議と飯が上手かったね」
オルチェにも懐かしさが蘇っているようだ。
エドワードは誇らしげに、
「エレナの味は、きっと、生まれてるくる子供にも伝わるさ」
「あ・・・言っちまった」
エレナは仕方ないねと言いながら、自身の妊娠を告げた。
「まじか・・・耳ありか?耳なしか?」
「生まれてみなきゃわからんか、ははは」
オルチェが顔を顰めて、
「あんた、そこは男か女かだろう?」
「まったく、しょうがないね」
マリウスは目を輝かせて、
「すごいね・・・エレナさん、お母さんになるんだね!」
と、エレナと自分の母、オリビアを交互に見る。
オリビアは、
「そういうことなので、私はプリンを作ることに専念しました」
「この料理はエレナさんの祝福の魔法で出来ているんですよ」
その種明かしは、シャアリィとアイシャにも届く。
二人は自分たちの血を残せない。
でも、それは痛みではなく祝福。
ずっと恋が出来るし、冒険も出来る。
少しばかりせつなくとも、見守りたい存在が増えれば、やるべきことも増えるのだ。
「おめでとうエレナ!」
「もっと早く教えてくれたら、お祝いの品を用意したのに!」
シャアリィがアイシャに目配せすれば、アイシャも、
「ああ、本当に素晴らしい」
「何時もサプライズを仕掛ける側だったらしいが、今日だけはまんまとやられたね」
「私達も又、とっておきのサプライズをするとしよう」
祝福の古代魔法は、受け継がれる。
今は鮮烈な文化の魔法も、いつか、古代魔法へと置き換わるのだろう。




