過疎の街の夜
終わってみれば呆気なく。
インジェクターにほぼ利用しない土石の魔石が少し混じっている以外には、文句もない。
過疎の街の衛兵の教育が行き届いていないことを幸いに、チョコレートと銀貨、そしてシャアリィの笑顔で買収。
本来ならば夜間の出入りには多少の詰問があるのだが、それを顔パスにする。
騎手を見つけなければ、馬車の扉の鍵がないのだ。
魔石を運び入れるにも、保存食を齧るにも、その鍵は必要。
アイシャと魔石の大荷物を門の外に残して、シャアリィが酒場を巡って騎手を見つけてきた。
「やぁ、英雄殿」
「おかえりなさい」
と、ほろ酔いの騎手に馬車の扉を開けさせて、魔石を客席に放り込む。
「えっと、私達、馬車の中で宿泊したいんだけどいい?」
と、問えば、騎手は勿論ですとも、と、愛想良く答える。
馬は馬房にいるので、勝手に出発することもない、と、騎手は心得ている。
そして、
「よろしければ、私も晩酌に少しばかり入れてもらってもよろしいですか?」
という騎手の申し出。
相手も融通を聞かせてくれているのだから、シャアリィとアイシャに断るという選択肢はない。
「勿論です」
「但し、明日も早いので深酒はしませんよ?」
と、アイシャが翌日の仕事に支障が出ないよう釘を刺す。
・・・
「うわ・・・これはすごい数ですね」
と、騎手が驚くのも当然。
安い魔石も多いが、そこにあるのは迷宮の魔物の魔石。
最低でも一つ銀貨五枚(五千円)にはなる。
それが二千個もあるのだから、最低で銀貨一万枚・・・つまりは金貨百枚(一千万円相当)だ。
たった一日で、それだけの稼ぎを得る冒険者。
「皆が迷宮に潜るわけですね」
この稼ぎは命と引き換えのもの。
迷宮に潜るにも装備を整えなければならないし冒険者の装備は安くはない。
シャアリィが長期間愛用していたワンドでさえ、銀貨二百枚。
そこにローブやら、ダガーやら、最低限の皮当てやらが入れば、満足な装備なら準備に銀貨五百枚を必要とする。
宿屋の一泊が銀貨六枚の世界で、銀貨五百枚を初心者の頃に稼ぐのはどれだけ大変なことか。
「この旅客車両だって相当高級でしょう?」
と、シャアリィが指摘すれば、騎手は笑いながら、
「ええ金貨で五十枚」
「馬と合わせれば金貨で七十枚は掛かっていますね」
と、教えてくれた。
旅客専用車は実入りがいいと言っても、一日金貨一枚。
使用後には掃除の手間もあるし、馬の維持費や車両の整備費も掛かる。
やはり元手がなければ何も出来ないという現実。
アイシャが騎手のグラスに酒を注ぎながら、
「世の中世知辛いのはお互い様ですね」
と、場を和ませる。
騎手は貨物トランクから大きな毛布を取り出して、アイシャに渡す。
「一枚しか、それもたまに私が使うこともあるやつですが、よろしければどうぞ」
砦の内側とは言え初冬の夜は冷える。
騎手が貸してくれる毛布は、二人には有難いサプライズだった。
「じゃあ、お返しね?」
と、シャアリィは幸運の菓子の銀色の包みを騎手に手渡した。
騎手はそれを受け取り、安宿へと引っ込む。
見上げれば、明日の快晴を予告するような星空。
無事に仕事を終えた安堵で、シャアリィは眠る。
アイシャはそれを優しく見守りながら、酔い覚ましの珈琲飴を味わった。




