死にかけ迷宮
アンダーロックにつき、シャアリィとアイシャは総合ギルドに顔を出す。
この街のギルドは、他の街のギルドで窓際に追いやられた職員の吹き溜まり。
覇気も、やる気もあるはずもなく、シャアリィとアイシャの宣言も欠伸混じりに流された。
「迷宮の中の魔物、全部狩っちゃってもいい?」
「二、三日で生えてくるとは思うんだけど」
と、シャアリィが言えば、職員は失笑を漏らす。
「好きにすりゃあいい、出来るもんならね」
アイシャはにやりと口を歪める。
「ありがとう」
「言質は頂いたよ?」
二人がドラゴン・スレイヤーだと気付かないくらいなのだから、当然か。
シャアリィとアイシャは上機嫌で鼻歌混じり。
ギルドが認めたのだから、一つの問題は解消された。
・・・
「死にかけ迷宮のくせに精霊密度だけは高いね」
実際は逆なのだ。
人が減れば精霊は増える。
魔物と人の会敵がなくなれば、消費される精霊が極端に減る。
迷宮が健康であれば迷宮が精霊を吸い上げ、魔力に変換し、様々な事象を顕現させる。
踏破迷宮は、穴のあいた容器。
自身を維持するために必要な最後のルームガーダーを失うことは、敗北であり、その能力は少しづつ衰えてゆく。
「さぁ、蹂躙の時間だ」
アイシャの戦闘開始の号令で、サーチアンドデストロイが始まる。
浅層でシャアリィが魔力を消費するような魔物はいない。
シャアリィはアイシャの壊す魔物から、魔石を搔き集めることに専念する。
中層の入り口三層。
まだまだシャアリィの出番はない。
ザグレブホーンでのロザリーの役回りをシャアリィが味わっている。
「私の出番、まーだー?」
口を尖らせながら、魔石集めに手を動かすシャアリィと、楽し気に三節棍を振り回すアイシャ。
僅か三時間程で、魔物を殲滅しながら深層域五層に辿り着く。
あらかじめほぼ空にしておいた二人のナップサックには魔石が溢れ、アイシャはナップサックの魔石を防水布で作った風呂敷のようなものに移し換える。
「さて、シャアリィ、お待ちかねの出番だよ」
「初回のトレインは三段階に分けて引こう」
「で、繋ぎの時に、プリズンで回復」
階段の踊り場。
どんな迷宮にも僅かに存在する比較的安全なエリア。
そこにシャアリィを待機させ、アイシャは走りだす。
イザベラがザグレブホーンで行ったような直線的な疾走ではない。
アイシャにはヘイトがないのだから、それを代用するためには弩弓や三節棍による『釣り』が必要になる。
魔物を引き連れて玄室に入り、そこにいる魔物を巻き込んでさらに次の玄室へ。
全ての魔物の脅威の総計が許容を越えないように。
それを成すのはイザベラにも出来ない離れ業。
帰路に設定しておいた長い直線通路で待ち換えるシャアリィが、魔物の進行を塞ぐようにアイスウォールを構築し、破壊へのカウントダウンを始める。
それは十カウントキャノンに最適な地形。
「砲撃!」
圧倒的な水圧が、魔力散逸を始める氷壁ごと魔物を蹂躙する。
一度の砲撃で百を超える魔物を巻き込み、絶命しなかった後列の魔物の処理が始まる。
アイシャは三節棍、シャアリィはアイスブラスト。
物理と術式の弾幕の前に魔物がたまねぎの微塵切りのように消えてゆく。
「じゃあ、回復用のやつを一つ持ってくるね」
アイシャがシャアリィのサンド・プリズン用の魔物を引き連れて帰ってきた。
「吸い上げろ」
澱みない一連の流れ。
アイシャの設計した戦術は完璧に機能した。




