過疎の街、再び
本来は、アーシアンでのんびりと魔石を採取するべきだろう。
だが、新たな冒険を思いついてしまった以上、遅延は熱を奪う。
時間は何時も足りない、だからこそ、魂は燃え上がる。
エレナ達の『魔法』を美味しく味わうためにも、義務は果たさなければならない。
アイシャが管理する二人の資産を使えば、金銭での魔石の調達は造作もない。
だが、それはシャアリィとアイシャの流儀に反するのだ。
冒険で得て、それを動力に様々な歯車を回す。
そこには過密なスケジュールという言い訳が通用する余地はない。
シャアリィとアイシャは、一瞬、一瞬でさえ、時間の壁を越えて勝利してきたのだから。
「アンダーロックしかないね」
というシャアリィの判断に、アイシャも頷く。
記憶の欠落したアイシャには出来ないこと・・・それは行き先を決めることだ。
身体というコンパスの針があっても、どちらが北なのか見当がつかなければ用を為さない。
一度目の挑戦で懲りたのは、貧相な食生活。
それを補うために、今回はあえて嵩張る保存食を買い込んだ。
どうせ旅客専用車両を手配するのだから、置き場には困らない。
準備に一日、移動と滞在で合計五日。
それはエレナ達の魔法のお披露目に間に合うギリギリのスケジュール。
大幅に上がった生産能力が要求する魔石の数は各種合わせて千八百個。
それを一日で集めるには、アンダーロックという小さな迷宮を一日で踏破するに等しい。
術式使いと近接アタッカーというペアにとって、最大の障害となるのは魔力不足。
だが、シャアリィには『サンド・プリズン』がある。
事実上、シャアリィの魔力は無限。
そうなると問題は、あと一つ。
魔石の持ち運びだ。
アイシャがそれを解決する手段を提案した。
酷く乱暴で、酷く迷惑で、それでいて効率的な手段を。
「私が各フロア全部の魔物をトレインする」
かつて、アイシャ・パーティがザグレブ・ホーンの高地で、ハイランド・オーガ『三日月』の牙城を打ち砕いた手法。
それをアイシャは迷宮の中で、たった二人でやるというのだ。
「面白いね!それで行こう!」
それは迷宮に潜る冒険者全員を敵に回すという意味に等しい。
本来であれば許される狩り方ではない。
だが、アンダーロック迷宮に関して言えば、潜っている冒険者がいるかどうかも怪しいのだから、大した問題ではない。
「浅層は逆に手間が掛かるから、会敵殲滅でいい」
戦術、戦略を練る時、アイシャの頭脳は恐ろしく切れる。
それはマッカーシー・パーティから継承された経験とアイシャが備えている洞察によって成立する。
琥珀の魔女と白銀の猛獣のペアは、不可能を可能にする最強の冒険者だ。
ハードルが高ければ高い程に真価を発揮する。
魔力総量の壁を壊し、ペア狩りの概念を壊し、常識をも壊す。
その力が二人にはある。
それでも越えられない壁があるのだから、この世界は理不尽で面白い。
イージーな狩りが、タイムリミットと高く設定された目標で二人の実力と天秤が釣り合う。
過疎の街に向けて、早速、旅客専用車両を手配した。
「相変わらずの破天荒」
「さすがは我が街の英雄」
そんなこそばゆい称賛を受け、向かう先はアンダーロック。




