新型魔動車両
翌日、シャアリィに導かれるままに職人ギルドに顔を出したアイシャが見たものは巨大な金属製の乗り物だ。
「おう、副商会長さん方!」
「依頼されてた車両、もうすぐ出来上がるぜ!」
「あと、今月の製品もそろそろ倉庫に納品させてもらうよ」
「本社から依頼されてるリフター車両もそろそろ完成だ」
レリットランスの一大産業となりつつある魔道動力機関を使った製品。
流通コストが半分以下になり、そろそろ価格を下げる段階にある。
「既に稼働してる一号車、二号車より、今回の三号車、四号車は改良されてるぜ」
「車輪の幅を広げて耐荷重を大幅に強化、防弾性も向上」
「この前運ばれてきた、最新魔道機関の十二連装インジェクターの性能を引き出した傑作だ」
シャアリィがアイシャに説明する。
「私達はエンダーベルトから魔道動力機関の心臓部インジェクターを輸入して、このレリットランスの職人ギルドの工房が、それをいろんな製品にしてくれてる」
「インジェクターと魔石によってエネルギーを生み出し、それを利用しているから魔力を持たない人でも生活魔具が使えるんだよ」
「魔石家具は魔石の起動に魔力が必要だし、調整なんかは出来ないけれど、魔道機関はそういう不便を解決した道具」
「今じゃそのインジェクターを輸送するのにも、魔道動力機関搭載の車両でグリーンノウズとレリットランスを繋いでいるってわけ」
「グリーンノウズに行けば、ほぼ私達専用の高速艇もあるよ?」
「で、私達の仕事は製品に必要な魔石の採集」
「そろそろアーシアンまで魔動キャラバンのルートを伸ばしてもいい時期だね」
「おそらくワイズリート教皇も、既に知ってることだし、この前何も言われなかったから、多分、アーシアンに乗り入れても問題ないはず」
馬のいらない馬車・・・それも巨大で頑強。
こんなものが本当に動くのだろうか、と、アイシャは思った。
「グリーンノウズは、前みたいな治安の悪い街じゃなくなったんだ」
「フランコ、ジョンソン、私達、そしてカジノ王のレオパルドによって、港湾貿易と観光の街になった」
「だから、安心して遊びに行けるよ」
アイシャの知らない三人の名前。
今、目の前にある得体の知れない乗り物。
それらが自分の口座に振り込まれ来る大金の正体。
「そうか・・・いずれ、グリーンノウズにもエンダーベルトにも行かなくちゃだね」
全てを理解するには、多くの人間と会わなくてはいけない。
シャアリィは、もう一つの街を付け加える。
「イルオールドにもね」
「ミヤマ先生のお墓参り、しなくちゃね?」
シャアリィが気付いたように、職人ギルドの担当に話を向けた。
「リフター車両って何?」
その答えはここにあるという仕草で、ギルド職員が別のガレージの大きな扉を開く。
「これがリフターだよ」
荷物を昇降させるための小型の車両だ。
「こいつは見た目に反して、馬鹿みたいに重い車両だ」
「当然、速度は遅い」
「だが、前方にある二本の爪と専用の荷台を使えば人間数人で持ち上げるような大荷物だって、簡単に運べるってわけだ」
「港湾の荷物の積み下ろしに威力を発揮するってんで、レオパルドの旦那がじきじきに導入計画を持ってきたよ」
「まぁ、これを納品するのにも、十二連装インジェクターの新型車両は必要だったから、本当に抜け目のないひとだね」
シャアリィは小さな笑いを漏らし、
「ははっ、さすが一流の事業家だ」
「多分、他にも車両の設計が持ち込まれるはずだよ」
「フランコとレオは、新新経済特区の設立でグリーンノウズを更に発展させようとしてるんだから」
「表の世界に出てきたカジノキングは私達よりずっとやり手だ」
アイシャは言葉も出ない。
そんな人物が率いるマーメイド商会の、副商会長という立場を少しばかり恐ろしく思った。
同時に会える時を楽しみに思った。
「さて、そろそろ魔石が底をつく頃だね」
「少しばかり調達してこなくちゃね」
シャアリィの視線がアイシャに向かう。
成程、魔石の調達に関しては自分たち程の適任はいない。
製造コストを下げるためには、魔石の自給は当然だ。
・・・
職人ギルドからの帰り道、シャアリィはくるりと振り返り、アイシャを誘う。
「ザックとロートシルトのお墓参り、付き合ってくれる?」
ザック・・・アイザック・エルモア。
そして、ロートシルト・エイヒム。
この街で活動していた冒険者と、冒険者ギルドのギルド・マスター。
これまで会った人物を考えれば縁のあったひとなのだろう。
小さな花束とブランデーの瓶を二つづつ。
シャアリィとアイシャは墓地に足を踏み入れる。
そこにある墓標の文字はわずかに薄れつつあるが、とても綺麗に整っている。
「やぁ、ザック、もう言葉を掛けるのも面倒になってきたよ」
「こんな自己満足を続けるのは、そろそろ互いにとっても良いことじゃない」
「ギルド・マスターは、多分、とっくに向こう側で私の話なんて聞いちゃくれてないだろうし」
「今回、アイシャがそっちに行きかけたけど、絶対に渡さないよ」
「私達にはまだやることが沢山残ってるんだ」
「だから、これでお仕舞にしようと思う」
「私達はもっと、もっと自由に生きるよ」
「じゃあね」
少しばかり冷たい台詞を残し、シャアリィは花束と酒を置く。
アイシャは祈るための記憶もなく、それを見守った。
生きている者にしか興味はないというメッセージは、アイシャのためのもの。
シャアリィの小さな覚悟。




