帰還の宴
レリットランスの面々との顔合わせが終わり、シャアリィは小さな安堵の溜息を吐いた。
そして、宣言する。
「辛気臭い話はこれでお仕舞だよ!」
「心配してくれてありがとうね」
「でも、何年か、何十年かすれば、これも笑い話に出来るって私は思う」
「まずは、レリットランス帰還の最初の宴」
「それでいいでしょ?」
アレックスとオルチェが鏡写しのように苦笑いして、
「何時だってあんたらには驚かされるし、感心するよ」
「でも、きっつい土産話だけはこれっきりにしとくれ」
オルチェが少しばかり涙ぐみ、アレックスが、
「しゃあないさ、こういうやつらだって皆知ってるだろ」
「だけど、やり遂げたことのデカさだってすげえからな」
「俺らは大人しく庶民してるから、冒険はまかせるぜ」
エレナはエドワードに寄り添い、
「機会があれば、みんな、アイシャさんに思い出を伝えたらいいんじゃないですか?」
「そうすれば、アイシャさんも私達との関係がわかると思うんです」
エレナの提案に、エドワードも同意する。
「まぁ、アイシャが面倒にならない程度に、時間を掛けてゆっくりな」
ナッチェは涙混じりに、
「私達がここにいることだって、アイシャさんとシャアリィさんのおかげです」
「自分がちゃんと一人前になることが恩返しなのです」
マリウスも声を上げる。
「お二人が作ってくれたスパイス・スープと揚げ物、俺、忘れてないから!」
「いつか、教えて下さい!」
オリビアは、マリウスの頭を撫でながら、
「私達はまだお付き合いも浅いので、気になさらずにいて下さい」
「これから覚えて頂けるように頑張りますね!」
と、アイシャを気遣った。
皆が笑顔になり、酒やつまみを口に運べば、時間は既に真夜中。
それじゃあ、またね、と、各々が帰路に着いた。
・・・
知らないひとが、私をこんなに知っているなんて、正直、驚きだ。
それも皆、好意を持ってくれている。
私がシャアリィと生きた時間、そして成した冒険の価値は計り知れない。
でも、私はアレックスの言う通り、ありのままで生きるしかない。
冒険がしたくなったらシャアリィと共に旅をし、疲れたらここに帰ってくる。
きっと、それだけで思い出は積み重なっていくはずだ。
明日はなにをしようか。
面白いことはあるだろうか。
忘れた問題の答えだけがあっても、どうしようもない。
新しい問題を探して、答えを見つけるうちに、何かがきっとわかる。
いや、わからなくてもいいんだ。
知りたいならば、皆が教えてくれる。
――― 記憶は魂の本質。
だが、全てではない。
ヒトがヒトであるためには、たくさんのものが必要だ。
幸いにして私にはたくさんの時間も、様々なことを叶えるための財貨もある。
むしろ、これは福音だ。
何もかもが上手く運び過ぎた自分への埋め合わせ。
そう思えば記憶を探す旅さえもが『冒険』になる。
そして私にはシャアリィがいる。
いつまでも、どこまでも、一緒にいてくれる ―――
そう思えば、何も怖くない。
・・・
週末、シャアリィと私は、この面々に料理を振舞うことにした。
私達の作る料理は随分と評判がいいらしい。
恐らくは自宅のリビングにあった旧世界の料理レシピのせいだろう。
そして、その次の週は黒猫姉妹とキャナリィ親子の料理。
楽しい予定があれば、それだけで過ごし方も変わる。
新しい思い出が増えれば、なくしたものを悔やむこともなくなるだろう。
少しゆっくりしたならば、遠方の知人に会いに出掛けようとシャアリィが言った。
もしかしたら、私が記憶をなくしたのは、こういう時間を作るためなのかも知れない。




