迷宮踏破の同志
賑わう客たちを横目にシャアリィとアイシャもアレックスの料理で腹を満たした。
アイシャは『焼き鳥』を気に入ったようで、皿の上には数本の串が残った。
「そろそろ来る頃なんだけどね」
シャアリィが待っているのは、迷宮踏破の同志、エドワード。
アイシャは少しばかり緊張している。
「エドワードってどんなひとなんだ?」
と、シャアリィに尋ねれば、
「えっとね、ぶっきらぼうだけど根は真面目で優しい」
「以前は見た目が悪漢風で怖かったけれど、院長になって紳士になった」
「あと、めっちゃ涙脆い」
「でも、兄貴分のザックの復讐のために全財産を掛けて挑むような、仲間思いのいい奴だよ」
シャアリィはガーゴイル殲滅戦の時の話をアイシャに教えた。
「そりゃ興味深い人物だね」
と、アイシャの緊張はほぐれたようだ。
店の閉店時間が迫り、客席もまばらになり、休憩していたアレックスが営業プレートを裏返すために立ち上がると、エドワードが顔を出した。
「すっかり遅くなっちまった」
「アレックス、まだ、焼き鳥残ってるか?」
と、エドワードがカウンターを見れば、そこにシャアリィとアイシャがいる。
「おお、帰ってきてたのか!」
「本当にお前らは何時も唐突だな!」
エドワードが掛けた声に、アイシャは神妙な顔になる。
これがエドワード、自分達と一緒に迷宮を踏破した仲間、か。
と、つい、その風貌に見入ってしまう。
「あれ、どうした?」
エドワードの反応に対処したのはオルチェ。
「とりあえず座りな」
「麦酒でいいかい?」
オルチェの声に生返事を返し、エドワードはシャアリィの隣に座る。
「ただいま、エドワード」
「お客さんがはけたら、いろいろ話すよ」
「まずは、再会の乾杯だね!」
怪訝な顔をしながらも、エドワード、シャアリィ、アイシャが麦酒のジョッキをぶつける。
「込み入った話か?」
と、問われ、シャアリィは笑顔を作って、
「そうでもないよ」
言葉少なく返すシャアリィと黙ったままのアイシャに、エドワードは不安な顔になる。
客が皆、席を立ち、アレックスが看板の灯りを消したのを合図に、シャアリィがエドワードに違和感の正体を教えた。
「見ての通り、私達は見た目全く問題ないんだけどね」
「アイシャが土石龍との戦いで、ちょっと死んじゃってね」
「蘇生は完璧だったんだけど、ここ五年くらいの記憶が封印みたいな状態」
「だから、アイシャにしてみれば、エドワードは初対面」
「私のことさえ最初は覚えてなかったけれど、アイシャはちゃんと帰ってきた」
「私とずっと一緒に生きることは変わらない」
エドワードの表情が凍る。
一応、治癒術師の端くれであるエドワードは、蘇生禁呪の恐ろしさを知っている。
こんな完璧な蘇生などあり得ない程に、アイシャの状態が良好なのも分かる。
だが、それでも自身との記憶を忘れられたことには小さな怒りさえ湧く。
「・・・アイシャ、お前皆のこと、わからないのか?」
「なんてこった・・・あの冒険も忘れちまったのか・・・」
アイシャは顔を曇らせて答える。
「済まない・・・だが、この言葉さえ私が言うべきなのか、わからない」
「目覚めたら知らない場所で泥まみれ、皆、傷つき果てた迷宮の中」
「私だって混乱したさ・・・ただ、目の前にある龍の骸のでかさに驚くしかなかった」
「そこにいるパーティ・メンバーさえ誰かわからなくて、体中が酷く痛むんだ」
「呆然とする私をシャアリィが抱き止めてくれたのが、新しい私の一歩だ」
アイシャの目に少しばかり怒りが滲み、エドワードは自分の言葉がアイシャを傷つけたことを知る。
「そうだよな・・・悪かった・・・」
「あまりのことに、つい、取り乱した」
「勘弁してくれ」
「俺にとってお前らは・・・本物の英雄なんだ」
「そんなの無責任な押し付けだってわかってる」
「でもさ・・・悔しいんだ」
エドワードは泣き崩れる。
その背にアイシャが手を添えて告げる。
「そのうち思い出すさ」
「それまで、ちょっとばかり面倒を掛けるが許してくれ」
アイシャは、理解している。
自分が流してはならない涙を代わりにエドワードが流していることを。




