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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
記憶を探す旅編
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お金のこと

サンルームでのひなたぼっこを早々に切り上げ、アイシャは自分の所有物の点検を始めた。

クローゼットの中にある沢山の衣類、そのどれもが自分の好みの品であることに驚く。

それは、このクローゼットの所有者が自分である証拠。


ベッドの傍に備え付けられた書棚を見れば、沢山の興味深い書物。

歴史書から工学、料理のレシピに加え様々な図鑑。

その書物だけでも金貨数百枚相当のコレクションだろう、と、アイシャは唸る。


ふたつあるドレッサーも同様に、どちらが自分のもので、どちらがシャアリィのものか、簡単に見分けがついた。

土間横にある収納箱には、沢山の履物。

踵の高いドレス用のものから、野営や登山に向いている頑丈なブーツまで、全てが揃っている。

それも自分のものだけでなく、少し小さなシャアリィのものまで。


壁の収納には、様々な上着。

コート、ジャケット、旅用のローブ、雨の日のためのレインコートも。

その全てが、自分のサイズに合うのだから疑いようもない。


「シャアリィ、商業ギルドにつきあってもらえる?」


アイシャが確認したいのは、現在の自分の生活基盤である預金のプロセス。

入金は冒険者ギルドや商業ギルド、マーメイド商会。

出金は職人ギルドやマーメイド商会、その他、様々な買い物先。

月割で金貨千枚もの収入がある計算だ。


「これって、シャアリィの所も同じように入っているの?」


と、問われれば、


「ん?臨時に入って来るお金以外はアイシャの所に全部入金されてるよ?」

「だって、私の口座にも金貨五千枚はあるし、不自由ないからね」

「ザグレブホーンの冒険でも相当の収入があったし、この前の賞金首掃除みたいなのがあれば、お小遣いには困らないんだ」


アイシャはそれを聞いて、


「今の預金を全部足して公平に分配しない?」


と、シャアリィに提案した、が、シャアリィは首を横に振る。


「アイシャが管理するほうが何かと都合が良いんだよ」

「私は一度にアレコレ考えるのが苦手だから、このままのほうがいいなぁ」

「それに・・・お金っていうのはバラバラにするより集めておいたほうが得なんだってレオが言ってたよ?」

「ほら、利子だけで、とんでもない金額が入ってるでしょ?」


二人の所持金や権利は、現状で既に聖金貨百枚(十億円)を超えている。

冒険者の身分で築けるような資産ではないことは明白。


「万一、私のお金が足りなくなったらアイシャに貰うからね!」


アイシャはここで理解する。

何不自由ないという環境は、徐々に自分たちの精神を蝕んだのだろう、と。

自分達にはお金の使い所というものがない。

慈善に大金を寄付するという使い方もあるが、それは全てを冒険で掴んできた自分たちの流儀に反するものだ。


人間は自分の手で稼いだ範囲でしか、お金を上手に扱えない。

泡銭は一瞬で解け、贅沢した記憶だけが残る。

ただのバラマキは無意味どころか害悪なのだ。


「ふぅ、わかった」

「お金はちゃんと私が管理するね」


と、アイシャが折れればシャアリィは満面の笑みで答える。


「全部溶かしたっていいんだよ?」

「でも、愛人は作らないでね?」


愛人・・・アイシャはその言葉に赤面する。

こんなに献身的で、綺麗な恋人を放って新しい恋に落ちるわけがない。

そしてその言葉は、自分こそが正当なパートナーだということを暗にアイシャに告げている。


「も、勿論だよ」

「こんな面倒な奴、シャアリィ以外に誰が付き合えるっていうんだ」


シャアリィは知っている、自分でさえ言い寄られた回数は百より先は覚えていない。

当然のようにアイシャに惚れてしまう者だって最低でも同じくらいはいるだろう。

ただ、アイシャの場合、ガードが固くなかなか直接言えないだけなのだ。


「アイシャは自分のことを良くわかってないねぇ」

「ちょっとシナを作れば、それだけでどれ程の男が寄って来ることか」


そういうものなのか、と、アイシャは思ったがろくでもない男が寄って来た所で迷惑千万。

それに・・・アイシャの瞼の裏でシャアリィとの日常が過る。


「私は、シャアリィ以外とは同じベッドで眠るつもりはない」

「好みの匂いというか・・・私はかなり五感が鋭敏なんだ」

「シャアリィは特別、だよ」


今いる場所が商業ギルドだと言うことも忘れ、アイシャが本音を口にした。

普段ならば極めて判断力に優れるアイシャでも、シャアリィが絡めばそれも機能しない。


「アイシャ・・・そういうのは二人の時にね?」


シャアリィに指摘され、顔の赤みがいっそう強くなる。

掌で自身の額の温度を確認しながら、


「わかってる、よ」


と、恥ずかしそうにアイシャは唇を震わせた。


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