陽だまりの部屋
お茶を飲み、少し寛いだ後、シャアリィとアイシャは三階のプレイべート・エリアに向かった。
ここにも又半回廊。
その先は四階の展望室兼サンルームへと続いている。
プライベート・エリアの扉を開けると、そこには二人で寝転んでもまだ余裕のある大きなベッドと、衣装などを仕舞う収納家具、快適な暮らしに欠かせない生活魔具は勿論、バスルームもある。
バスルームには脱衣所と洗面台、そして硝子戸で仕切った向こうには大きなバスタブと鏡。
その豪華さにアイシャは絶句する。
「この家って、本当に何から何まで贅沢ね・・・」
「これに飽きるって、私・・・どういう神経だったのかな」
アイシャはセロニアス宗家の娘だ。
巨大な屋敷には修練場、大浴室、大広間、妹と一緒に使っていた個室には自分用のベッドもあった。
だが、それは祖先から受け継がれてきたものであり、武芸者に相応しい簡素な造り。
規模こそ小さいが、この屋敷にある家具や設備は贅沢極まりない。
「サンルームでひなたぼっこする?」
シャアリィの誘いの言葉は、四階にも何らかの設備があることを示す。
当然、見ないという選択肢はない。
「行こう!」
半回廊の終端は上階への階段。
階段の先にある扉を開ければ、そこは三方向を硝子で囲まれた部屋。
そして、その天井の半分もまた硝子材で出来ている。
サンルームとは良く言ったものだ、と、アイシャは感心すると同時に感動した。
この世界で透明な硝子というのは、非常に高価なものだ。
他の階層もそうだが、それをこれでもかという程に使っている屋敷。
それが自分の家だという事実に普段クールなアイシャもはしゃいでしまう。
「シャアリィ!すごいぞ、私達が通って来た街道が見える!」
「街の景色も一望だ」
「衛兵通りでこの屋敷より高い建物は殆どないんだな!」
見下ろしたレリットランスの街、教会の隣にある巨大な建物が目に留まる。
「教会の隣の大きな建物はなに?」
と、アイシャがシャアリィに尋ねれば、シャアリィは少しばかり思案する。
ここで話すべきか、それともエドワードと会った時に・・・と、考えたが、シャアリィはネタばらしをすることにした。
「あれは治癒院だよ」
「しかも、私達と無関係じゃない」
「その名も踏破記念治癒院」
「あの治癒院の運営費の原資は、私達の迷宮踏破年金が使われているんだよ」
「そして治癒院の院長は、共に踏破を果たしたエドワード」
「他の金持ち相手の治癒院じゃなくて、貧しい人や民間の人も利用できるように教会や領主府も協力してくれてるすごい施設」
アイシャはそれを聞かされて驚く。
治癒院と言えば、非常事態にしか使えない程に高い金を取られる場所。
それを民間の人間が利用できる価格で運営する等可能なのか、と。
「そんなことをして経営大丈夫なの?」
シャアリィは少し首を傾げて、
「大丈夫なんじゃないかな?」
「一般からの寄付もあるし、貧しい人はお金での支払いじゃなくていろいろな物品での支払いも受け付けてるんだよ」
「踏破年金はあくまで原資で、それを使った投資でも収益があるんだって」
「詳しいことまではわからないけれど、首都の医療機関より先進的なんだって聞いたよ?」
アイシャには経営手法の全容はわからなかったが、健全な経営であることは理解したようだ。
「外は冷たい風が吹いているのに、ここはすごく温かいね」
置かれている木製の寝椅子に背中を預け、アイシャが欠伸をする。
本来であれば、ここにもソファを置きたい所だが、夏場はとんでもなく高温になるために木製の椅子しか置けない。
「やっぱり、猫は温かい所が好きだよね」
「でも、寝入ると椅子が硬いから身体を痛めるよ?」
「寝たければ、寝室からクッションを持ってこようか?」
シャアリィに言われて、選択を迫られたアイシャは昼寝を諦めた。
「こんなに快適だと外に行けなくなっちゃうね?」
その問いに、シャアリィは頬を掻きながら答えた。
「そうだったら良かったんだけどさ」
「私達は大人しくしてられない質だったんだね」
「あっちこっちに遊びに行ってたよ」
シャアリィとアイシャは目を合わせ、笑う。
「そうか、私もこんな幸せに慣れてしまうんだね」
「でも、そうならないように出来るといいなぁ」
アイシャの心に新しい風景が刻まれ、それをシャアリィは優しい眼差しで眺めた。
幸せに慣れてしまわないように。




