汚れ仕事と聖地
何故、シャアリィが見せしめにポルシェンカを選んだのか。
それはポルシェンカには司法取引の資格がないからだ。
既に一度、ポルシェンカは司法取引で死罪を免れ、奴隷落ちしている。
トリスタンとバスビィ。
罪状は似たようなものだが、年上のバスビィは司法取引の権利を最後の最後で、トリスタンに譲った。
それは悪党が見せた人間らしさ。
少しばかりバスビィよりも若いトリスタンならば、片足の奴隷に落ちても運が良ければ多少長生きが出来る。
万年人手不足のジルノワール衛兵所は、まる二日を掛けて盗賊ギルドの悪党を検分する羽目になった。
シャアリィやアイシャ程でなくとも、腕に覚えのある冒険者がその気になったならば、いずれ盗賊ギルドなどというならず者の群れは駆逐されていただろう。
だが、一晩で壊滅させるような手際は、二人にしか無理。
シャアリィとアイシャは、照合できた賞金首報酬金貨千四百枚を受け取り、三日遅れのキャラバンに乗り込んだ。
「汚れ仕事だけど実入りはいいね」
シャアリィにそう話し掛けられたアイシャは、
「本当に・・・汚れ仕事だね」
「毒には猛毒をって感じ」
「でも、不思議と充実感はあるんだ」
人は愚かだ。
ささやかに生き、神を信じ、祈りを欠かさない者と、欲に塗れ、金に縋り、非道の限りを尽くす者に訪れる最後が等しい世界でも、自分だけは特別であろうとする。
優しい者とそうでない者の間に永遠に横たわるのは、断絶された相互理解。
シャアリィとアイシャはその接点を生きる。
時に優しく、時に傲慢に、命を守り、命を奪う。
それを成すのに必要なのは、『強さ』。
・・・
レリットランス。
それはシャアリィとアイシャにとっての聖地。
冒険者としても、人間としても、優しくあれる場所。
例え、二人の両手が血に塗れていようとも、レリットランスでは英雄なのだ。
シャアリィにとって何度も通った見慣れた旅路は、今のアイシャには初めての景色。
首都の高地よりも少しばかり温かく、山河の元にある大きな盆地。
そこにひしめくように立つ住居は壮観。
アーシアン連合国の流通の要という立地に加え、小規模ながら迷宮もある。
発展しないわけがない。
もしも、北部ナセルバ迷宮が発見されていなければ、この発展はもっと大きなものだっただろう。
「いい街なんだよ」
「私達の冒険の始まりの場所」
「出会ったのはアーシアンだけどね」
シャアリィの声に、車窓から見える景色に目を奪われたままのアイシャが首肯する。
「そうみたいだね」
「私達の家はどのあたり?」
何時もはしゃいでいるシャアリィが、この時ばかりはお姉さんだ。
「まだまだ先だよ」
「私達の家は、繁華街の中にあるんだよ」
「正門から入ってすぐの衛兵通り」
「どんな家かは、見てのお楽しみにしておくね」
アイシャのしっぽがゆらゆらと上機嫌に揺れれば、シャアリィはそれだけで嬉しくなる。
「ほら、危ないから、ちゃんと座ろう?」
まるで妹を窘めるような言葉。
五年もの記憶がなければ、アイシャの情緒はまだ少女のままなのかも知れない。
シャアリィはアイシャにチョコレートの包みを渡す。
「ありがとう」
と、言って受け取るアイシャの柔らかな笑み。
今だから味わえる馴れ初めの頃の距離感。
それはシャアリィの心に僅かな寂しさと、大きな喜びを与える。
もう一度。
最初から恋が出来るなんて。
なんて幸せで、なんて残酷なんだろう。




