琥珀の魔女と白銀の猛獣
――― 私はナニモノだろうか。
戦うために生まれ、育ち、その居場所を失っても、それしか残らない。
まるで消えない呪いのように戦いは自分につき纏う。
戦って何を得る?
戦って何を失う?
富、名声、称号を得た先に、まだ、戦う理由があるのだろうか。
記憶を失ってまで戦った理由は、些細な日常の不満だったらしい。
釣り合わない天秤を無理矢理に釣り合わせようとした時、天秤そのものが破綻する。
そう、多分、戦いの果てにあるのは破滅。
でも、もう、降りられない ―――
シャアリィはアイシャに手を差し伸べ、アイシャはその手を握り返す。
冷たく澄んだ月明りの下に二人の美しい少女が佇めば、まるで御伽噺の世界。
でも、ここは現実。
二人の本性は、琥珀の魔女と白銀の猛獣。
全てを戦いで掴み、戦うことでしか自分の価値を証明できないと『錯覚』している愚か者。
共に子を成せない身体はイキモノとしての価値はなく、自分が血脈の末端の一つであるならば、その在り方は当然かも知れない。
・・・
「あの場所だけ、雑草が妙に少ないんだよ」
シャアリィの指摘で、アイシャは小さな廃屋を見つめる。
そしてセロニアスの尋常ならざる視力は、月明りの下で『足跡』を見つけた。
「小屋はダミー」
「あの下に隠れ家があるね」
「火薬の匂いはしない・・・爆薬の罠はない」
「よく、突入を我慢したね?」
じゃあ、と、アイシャが提案したのは、
『水攻め』
廃屋の床から僅かに漏れる灯り目掛け、彗星棍を叩きつければ、そこに人が通れる程の大穴が空く。
「シャアリィ、水量のある水の術式を使おう」
「水吐けが良くても一時的に床が冠水すれば、脅しにはなる」
指示を得たシャアリィは、螺旋状を穴に差し入れ術式を使用する。
「十カウント・ウォーター・キャノン、チャージ開始」
吹き荒れる魔法風に、アイシャが驚嘆する。
小型の竜巻さえ伴うそれは、朽ちかけた廃屋の屋根を吹き飛ばし、荒れ狂う。
十カウントのウォーター・キャノンであれば、ちょっとした洪水程の水量だ。
「砲撃!」
垂直に放てば地盤をも掘削しかねないエネルギーを逃がすために、斜めに傾けた杖から瞬時に大量の水が流れ込む。
地面の下で何が起きているかはわからない。
だが、程なく溢れる水と共に浮かび上がって来る三人の悪党。
「トリスタン、バスビィ、ポルシェンカだね」
アイシャの呼び掛けに沈黙するずぶ濡れの悪党。
自身の名を問われたならば、これがどういう場面か察しがついたのだろう。
アイシャは無言のポルシェンカの首を片腕で締め上げ、
「女は一人・・・つまり、きみはポルシェンカ」
「首を折られたくないなら、答えたほうがいい」
「こっちの男がトリスタンか?」
アイシャが確認したいのは、この三人が盗賊ギルドの頭目かどうかだけだ。
名を問われた男も沈黙していることで、見当に間違いはないようだ。
バスビィらしき男が声を上げる。
「俺達をどうするつもりだ?」
それに答えたのは、シャアリィ。
「一人だけは生かすよ?」
「盗賊ギルドの全容を喋って貰わなきゃね?」
「えっと、司法取引だっけ?」
「残り二人は残念だけど用はないから、死なない程度には痛めつける」
「生かしておいたほうが、報酬が高いからね」
普通ならば自分だけ助かろうとするものだが、三人は揃って悪態をつく。
「そっちで適当に決めてくれ」
「生き残っても司法取引なんてクソを踏む気はない」
「もう決着はついてんだ、殺せばいいじゃない?」
アイシャは顔を曇らせたが、シャアリィは相手が悪党であれば一切の容赦はない。
「ちょっと試してみようかな」
そう言うと、ポルシェンカの右の眼孔をダガーで抉った。
「ぎゃあああああああああああ」
女の絶叫で一斉に闇夜に鳥が飛び立つ。
シャアリィはバスビィの前に立ち、
「順番に少しづつ壊すよ?」
「絶対に死なせない自信はあるから、クソを踏みたくなったら、すぐに言ってね?」
バスビィは怯えた眼差しで叫ぶ。
「待て・・・俺は・・・」
その声を遮るように、残りの二名も喚く。
「俺を助けろ、何でも喋る!」
「ふざけんな、あああああああああああ、痛いっ、もう嫌だ、私が喋る!」
アイシャがくすっと笑って、
「結局、こうなるのか」と言えば、シャアリィも不敵な笑みで、
「勿論、こうなるんだよ」と、返す。
それは、奇しくも何度も二人の間で交わされた言葉。
三人の頭目たちは、お揃いのようにアイシャに片足をへし折られた。
「私達の出番はこれで終わり」
「に、したい所だけど、舐めた態度を取るなら、今の続きをするからね?」
まだ月の残る夜空。
二人の少女の背中を悪党たちはうめき声で見送るしかなかった。




