仕事はそれだけでいい
治安の良いレリットランスや、冒険者だらけのナセルバから逃げるように、ジルノワールに吹き溜まった悪党たち。
首都アーシアンでは既に裏社会にも序列があり、新参者が食い込む余地はない。
それに都市とは違い、中継点の街で治安を維持しているのは、都市から派遣された衛兵だけ。
衛兵達にしてみれば、何事もなく在留期間を過ごせば都市に戻れるのだから、無理な捜査などするはずもない。
酒場にいる連中を片っ端から締め上げれば、そこにひとりくらい賞金首が混じっていることなど、日常茶飯事だ。
殺人、傷害、誘拐、人身売買、違法薬物取引、暴行、強姦、強盗。
歓楽街を中心にしている中継点の街では、犯罪が起きない日のほうが珍しい。
「さて・・・大物はこの三人」
手配書からメモに書き写した名前。
ジュール・トリスタン。
ジョン・バスビィ。
エルメラ・ポルシェンカ。
盗賊稼業で四十才前後まで生きている生粋の悪党たち。
特にポルシェンカは一度奴隷落ちまでして、尚、手配書に名を連ねる女。
「なんだ・・・結構、調べは進んでるじゃないか」
アイシャの感情のない労いの言葉に、衛兵所の所長が頷く。
「人手が足りなくてですね・・・なかなか一斉検挙に踏み切れないのですよ」
それが本当か、嘘かは関係ない。
そして、人手不足も、また、シャアリィとアイシャに掛かれば問題ない。
「潜伏先はわかってるの?」
シャアリィが問えば、それも見当がついているという。
結局、下手に動いて欠員が出れば、責任問題になるから見過ごしているのだろう。
地図を開けば、三つのアジトを回っても早ければ一日でカタがつく。
そう判断したアイシャは、所長に最後の問いを投げる。
「職務怠慢は仕方ないね」
「誰にでも自分の損得というものがある」
「だが、今日、明日に限っては、衛兵勤務初日のつもりでやってくれるね?」
「私達は少しばかり領主たちにも顔が利く」
「今回の仕事は、今まで通りじゃないよ?」
それは明確な脅しだ。
大物を一網打尽にするには、網に抜け穴があってはならない。
「夜間、馬の出入りを制限してくれ」
「きみたちの仕事はそれだけでいい」
「簡単だろう?」
「あとは私達が片付ける」
記憶を無くしているなどと誰が信じられるだろうか。
その眼光の鋭さには服従せざるを得ない。
「か、畏まりました」
「ご武運を!」
本来、衛兵所の所長が一介の冒険者に頭を下げることなどあり得ない、が、そうするべきだと自己保身が囁いたのだろう。
「では、作戦開始」
「余計なことはしなくていいよ」
「むしろ、するな」
「命が大事ならば、馬の見張りだけきっちりとね」
シャアリィとアイシャは、足早に潜伏先の一つである廃屋へと向かう。
そこに三人全員がいれば良し、さもなければ虱潰しだ。
シャアリィは上機嫌。
アイシャの復帰戦としては少々歯応えがないだろうが、それでも、こうして勇ましい姿を見ることが叶った。
ここのところ、ずっと晴れていたために、足場もいい。
そして、何より、
『月が綺麗だ』
これだけの光量があれば、二人の視力に不安はない。




