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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
記憶を探す旅編
556/571

仕事はそれだけでいい

治安の良いレリットランスや、冒険者だらけのナセルバから逃げるように、ジルノワールに吹き溜まった悪党たち。

首都アーシアンでは既に裏社会にも序列があり、新参者が食い込む余地はない。

それに都市とは違い、中継点の街で治安を維持しているのは、都市から派遣された衛兵だけ。

衛兵達にしてみれば、何事もなく在留期間を過ごせば都市に戻れるのだから、無理な捜査などするはずもない。


酒場にいる連中を片っ端から締め上げれば、そこにひとりくらい賞金首が混じっていることなど、日常茶飯事だ。

殺人、傷害、誘拐、人身売買、違法薬物取引、暴行、強姦、強盗。

歓楽街を中心にしている中継点の街では、犯罪が起きない日のほうが珍しい。


「さて・・・大物はこの三人」


手配書からメモに書き写した名前。

ジュール・トリスタン。

ジョン・バスビィ。

エルメラ・ポルシェンカ。


盗賊稼業で四十才前後まで生きている生粋の悪党たち。

特にポルシェンカは一度奴隷落ちまでして、尚、手配書に名を連ねる女。


「なんだ・・・結構、調べは進んでるじゃないか」


アイシャの感情のない労いの言葉に、衛兵所の所長が頷く。


「人手が足りなくてですね・・・なかなか一斉検挙に踏み切れないのですよ」


それが本当か、嘘かは関係ない。

そして、人手不足も、また、シャアリィとアイシャに掛かれば問題ない。


「潜伏先はわかってるの?」


シャアリィが問えば、それも見当がついているという。

結局、下手に動いて欠員が出れば、責任問題になるから見過ごしているのだろう。

地図を開けば、三つのアジトを回っても早ければ一日でカタがつく。

そう判断したアイシャは、所長に最後の問いを投げる。


「職務怠慢は仕方ないね」

「誰にでも自分の損得というものがある」

「だが、今日、明日に限っては、衛兵勤務初日のつもりでやってくれるね?」

「私達は少しばかり領主たちにも顔が利く」

「今回の仕事は、今まで通りじゃないよ?」


それは明確な脅しだ。

大物を一網打尽にするには、網に抜け穴があってはならない。


「夜間、馬の出入りを制限してくれ」

「きみたちの仕事はそれだけでいい」

「簡単だろう?」

「あとは私達が片付ける」


記憶を無くしているなどと誰が信じられるだろうか。

その眼光の鋭さには服従せざるを得ない。


「か、畏まりました」

「ご武運を!」


本来、衛兵所の所長が一介の冒険者に頭を下げることなどあり得ない、が、そうするべきだと自己保身が囁いたのだろう。


「では、作戦開始」

「余計なことはしなくていいよ」

「むしろ、するな」

「命が大事ならば、馬の見張りだけきっちりとね」


シャアリィとアイシャは、足早に潜伏先の一つである廃屋へと向かう。

そこに三人全員がいれば良し、さもなければ虱潰しだ。


シャアリィは上機嫌。

アイシャの復帰戦としては少々歯応えがないだろうが、それでも、こうして勇ましい姿を見ることが叶った。

ここのところ、ずっと晴れていたために、足場もいい。

そして、何より、


『月が綺麗だ』


これだけの光量があれば、二人の視力に不安はない。


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