記憶の証人
「ねぇ・・・アイシャ」
「今のアイシャにとって、ここは知らない世界だよね?」
「じゃあ、アイシャを知っている人に会わない?」
「この街には、あなたの妹がいるよ」
・・・会いたい。
私のことを知っている誰かに会いたい。
妹が、リーシャが、この街にはいる。
「中央大教会に行こう」
「私達ならば会えるよ」
シャアリィは、そう言って私に手を差し伸べた。
何故、こんな時まで私に微笑みをくれるのだろうか。
その理由は、私の知らないアイシャ・セロニアスだけが知っている。
私の知っている私・・・それが幻でないならば。
「付き合ってくれる?」
と、問えば、
「何時だって一緒にいるよ」
と、答えてくれる。
・・・
この街の高層建築物の中でも、王城に匹敵する程に大きな建物。
それが中央大教会と教皇庁。
私達は、リーシャ・セロニアスへの面会を求めた。
「恐らく中庭にいらっしゃると思いますので、少々、お待ち下さい」
と、良い返答が返ってきた。
冒険者候という街着のままで、こうして面会出来るのは、積み上げた功名の成果なのか。
それとも私とリーシャが血縁であるからなのか。
恐らくは両方なのだろう。
「こちらへ」
と、案内されたのは、綺麗に整備された芝生。
公園のような中庭にひとつだけある、真っ白な日傘とテーブル。
そこに自分と同じ顔をした少女と、紫の詰襟の聖衣を纏った紳士がいた。
紫・・・それが示すのは、
『教皇』
身体が震える・・・まさか教皇と面会することになるとは予想もしていなかった。
その教皇が、私達を手招きして呼ぶ。
「よく来たね、ドラゴン・スレイヤー」
「空いている席に掛けるといい」
若い・・・。
先代教皇は崩御されたのだろう。
シャアリィは臆することもなく、教皇が指示した椅子に座る。
「お久しぶりです」
「ワイズリート教皇」
直接、言葉を交わすなど、市井の者としては恐悦至極。
「さぁ、座り給え、アイシャ・セロニアス」
促されるままに着席するしかない。
・・・
ここを訪れた理由、それを手短にシャアリィが説明し、私は抜け落ちている部分を補足する。
喉がカラカラに乾く。
話をしたかったリーシャとなかなかに言葉を交わせない。
「ショット・・・外して貰えぬか?」
「そんな大変なことがあったならば、さぞ、姉上は心細かろう」
「お前がいては心が休まらぬ」
リーシャが、教皇に対して恐ろしいことを言った。
意外にも教皇は、リーシャの髪を優しく撫で、それに従った。
「そうだね・・・少しばかり気が利かなかったよ」
「後からジェネトリウムにも寄るといい」
「シュラインが何かアドバイスをくれるかもしれないよ?」
教皇は静かに席を立ち、ひらひらと掌を振って去る。
それを見計らったリーシャが、
「姉様・・・私はちゃんと覚えていますよ」
「姉様に頂いた髪飾りもちゃんと大切に持っています」
「琥珀の姉様がついていながら・・・」
「否、それ程に強敵だったのでしょう」
「しかし、ロザリー・イグシエンヌには感謝ですね・・・」
「私と姉様を引き合わせてくれただけでなく、命まで助けて貰った」
「何らかの形で、私も報いるとしましょう」
シャアリィは、少しばかり居心地が悪そうだ。
「アイシャ・・・もし、姉妹だけで話したいなら、私も席を外すけれど?」
私は、その申し出に何故か即答する。
「否、シャアリィもいて欲しい」
「そのほうが気分が落ち着く・・・んだ」
「ちょっと、不思議だね」
リーシャが微笑む。
「記憶さえなくしても姉様達は相変わらずなのですね」
「琥珀の姉様、アイシャ姉様を宜しく頼みますよ」
あの泣き虫だったリーシャは、今では『受難の聖女』と恐れられる最強の術式使い。
それより、一人の人間として、大人になった妹を見ると嬉しくなる。
「リーシャが成長した分の時間も、私は取り戻さなくてはね」
「前回、会った時のことは忘れてしまったけれど、もう、忘れないように」
「しっかりと覚えておくよ」
妹。
私がこの世界に生きていた証明。
言葉を交わして実感する・・・何を為さねばならないのか。
もし、私の記憶が戻らなかったとしても、リーシャは私の妹だ。
それを覚えているだけでも、今は良しとしよう。




