記憶の証拠
アーシアンに着くのは、何時も正午の打鐘時間。
荘厳な鐘の音が響き、キャラバンは停車場に辿り着く。
この地でアイシャ・セロニアスを待っているのは、
『現実』
その証拠は、大教会墓地にある。
・・・
シャアリィは行き道の途中で、馴染みと思われる花屋に寄る。
私はただ、それを眺める。
実感がないのだから、手向け花も他人事のように感じてしまうのだ。
それよりも、すぐにでも冒険者ギルドに足を向け、マッカーシー達を探したい衝動。
既にシャアリィに対して、不信はない。
が、それでも信じたくない、信じられないことだってあるのだ。
特に、自分が世話になっていたパーティの全滅・・・自分自身、記憶のビジョンで見たにも関わらず、それを信じられない。
「豪勢な花束、中心は白い大輪の薔薇」
「それを五つ」
朗らかな顔をした老婆が、私の異変に気付く。
「おや、そちらの娘さんは・・・」
だが、それ以上を口にせず、シャアリィの注文通りの花束をせっせと作る。
まるで二人は通じ合っているかのように、軽い笑顔を交わし、言葉ではない言葉で私のことについて説明が済んだようだ。
「何度か、マッカーシー・パーティのお墓に供える花束を作って貰ってるんだよ」
シャアリィの説明は、私にしてみれば何時も不十分で、その余白を私は自分自身の想像力で埋める以外にない。
それをシャアリィに求めれば、問い詰めるような口調にもなりかねない。
「そう・・・なんだね」
それ以上、何と答えて良いかわからない。
同じ通りにある酒屋によって、上等なラムのボトルを一つ、シャアリィが無造作に手に取った。
私は、何時も飲んでいるもののほうが良いと思い、違うボトルを手に取る。
「シャアリィ、こっちにしよう」
「マーシーたちは、これを気に入っている」
・・・気に入っていた、とは、まだ言えないのだ。
シャアリィは細かい言葉違いに気付かなかったようだ。
「じゃあ、そっちにしよう」
と、銀貨をじゃらりと店員に手渡す。
・・・
冬が近い。
墓地には人影はまばらで、時折吹く風のせいか、あちこちで花びらが舞っている。
「マッカーシー・パーティの皆」
「久しぶり」
「私の相棒にして、そちらのパーティの末っ子が来てくれたよ」
シャアリィの正面にある墓碑は、少しばかり古びている。
それは少なくとも数年が経過している証拠。
そして、墓標には友であり、家族のような面々の名前と生きた時間が彫られている。
「マーシー・・・本当にもう、きみたちは向こう側にいるのか」
「出来の悪い冗談ではないんだね」
「私は、忘れてしまったんだ・・・いろいろなことを」
「しかし、ちゃんと復讐は果たしたらしい」
「それが何の意味があるのかなんて、私自身だってわからないんだ」
「でも、多分、ずっと成し果せるまで、私は自分自身を許さなかったことだけは想像出来る」
「まるで、夢のようだね・・・御伽噺さ」
「自分が知らない間に、何年も過ぎて、自分だけが取り残されてしまった」
「たった五年にも満たない時間、でも・・・それが、今、私には少しばかり重い」
どうやらギルドで確認するまでもないようだ。
悪戯で墓標を置くような罰当たりなどいない。
あとは、冷静に私が対処するべき問題だ。
否、冷静だ・・・酷く醒めている、この感情は、まるで氷結魔法で凍らされたように。
この光景を見ても、淡々と自分が忘れてしまっていた時間を復元するだけ。
そんな自分に苛立つ。
「他にどうしろって言うんだ」
「私は知らないんだ、覚えていないんだ」
「どれくらい悲しかったのか、どれくらい辛かったのか、どれくらい泣いたのか、ちゃんと弔えたのか、何一つ覚えていないんだ」
「私が悪いのか?」
「ああ、多分、私が悪いのさ」
「無茶な冒険で、命は助かったけれど、同じくらい大事なものを失ったのは自分自身のせいだ」
「・・・そんなに、私が悪いことをしたのか・・・」
気付けば泣いていた。
喚いていた。
シャアリィも、同じように泣いていた。




