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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
記憶を探す旅編
549/570

記憶の証拠

アーシアンに着くのは、何時も正午の打鐘時間。

荘厳な鐘の音が響き、キャラバンは停車場に辿り着く。

この地でアイシャ・セロニアスを待っているのは、


『現実』


その証拠は、大教会墓地にある。


・・・


シャアリィは行き道の途中で、馴染みと思われる花屋に寄る。

私はただ、それを眺める。

実感がないのだから、手向け花も他人事のように感じてしまうのだ。

それよりも、すぐにでも冒険者ギルドに足を向け、マッカーシー達を探したい衝動。


既にシャアリィに対して、不信はない。

が、それでも信じたくない、信じられないことだってあるのだ。

特に、自分が世話になっていたパーティの全滅・・・自分自身、記憶のビジョンで見たにも関わらず、それを信じられない。


「豪勢な花束、中心は白い大輪の薔薇」

「それを五つ」


朗らかな顔をした老婆が、私の異変に気付く。


「おや、そちらの娘さんは・・・」


だが、それ以上を口にせず、シャアリィの注文通りの花束をせっせと作る。

まるで二人は通じ合っているかのように、軽い笑顔を交わし、言葉ではない言葉で私のことについて説明が済んだようだ。


「何度か、マッカーシー・パーティのお墓に供える花束を作って貰ってるんだよ」


シャアリィの説明は、私にしてみれば何時も不十分で、その余白を私は自分自身の想像力で埋める以外にない。

それをシャアリィに求めれば、問い詰めるような口調にもなりかねない。


「そう・・・なんだね」


それ以上、何と答えて良いかわからない。

同じ通りにある酒屋によって、上等なラムのボトルを一つ、シャアリィが無造作に手に取った。

私は、何時も飲んでいるもののほうが良いと思い、違うボトルを手に取る。


「シャアリィ、こっちにしよう」

「マーシーたちは、これを気に入っている」


・・・気に入っていた、とは、まだ言えないのだ。

シャアリィは細かい言葉違いに気付かなかったようだ。


「じゃあ、そっちにしよう」


と、銀貨をじゃらりと店員に手渡す。


・・・


冬が近い。

墓地には人影はまばらで、時折吹く風のせいか、あちこちで花びらが舞っている。


「マッカーシー・パーティの皆」

「久しぶり」

「私の相棒にして、そちらのパーティの末っ子が来てくれたよ」


シャアリィの正面にある墓碑は、少しばかり古びている。

それは少なくとも数年が経過している証拠。

そして、墓標には友であり、家族のような面々の名前と生きた時間が彫られている。


「マーシー・・・本当にもう、きみたちは向こう側にいるのか」

「出来の悪い冗談ではないんだね」

「私は、忘れてしまったんだ・・・いろいろなことを」

「しかし、ちゃんと復讐は果たしたらしい」

「それが何の意味があるのかなんて、私自身だってわからないんだ」

「でも、多分、ずっと成し果せるまで、私は自分自身を許さなかったことだけは想像出来る」

「まるで、夢のようだね・・・御伽噺さ」

「自分が知らない間に、何年も過ぎて、自分だけが取り残されてしまった」

「たった五年にも満たない時間、でも・・・それが、今、私には少しばかり重い」


どうやらギルドで確認するまでもないようだ。

悪戯で墓標を置くような罰当たりなどいない。

あとは、冷静に私が対処するべき問題だ。


否、冷静だ・・・酷く醒めている、この感情は、まるで氷結魔法で凍らされたように。

この光景を見ても、淡々と自分が忘れてしまっていた時間を復元するだけ。

そんな自分に苛立つ。


「他にどうしろって言うんだ」

「私は知らないんだ、覚えていないんだ」

「どれくらい悲しかったのか、どれくらい辛かったのか、どれくらい泣いたのか、ちゃんと弔えたのか、何一つ覚えていないんだ」

「私が悪いのか?」

「ああ、多分、私が悪いのさ」

「無茶な冒険で、命は助かったけれど、同じくらい大事なものを失ったのは自分自身のせいだ」

「・・・そんなに、私が悪いことをしたのか・・・」


気付けば泣いていた。

喚いていた。

シャアリィも、同じように泣いていた。


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