小さな答え合わせ
シャアリィの膝の心地良さに、ついつい熟睡してしまった。
私が起きると嬉しそうに耳をくすぐって来る少し冷たい指先。
これが、いつも通りならば・・・悪くない寝覚めだ。
急いで身体を起こす私を残念そうに見やりながら、
「じゃあ、私が眠る番ね」
と、その頭を私の膝に乗せる。
人間の身体というのは、見た目よりもずっと重い。
小さなシャアリィの頭でも、西瓜よりもその重さを感じる。
こうして見ると、本当にシャアリィは綺麗だ。
ほんの少しだけ鼻の周りにある雀斑さえも、矛盾のない設計にさえ思える。
柔らかな髪から顔を出す、少し大きめの耳も愛らしい。
よく似ていると言われる妹も美しいのだが、自分自身の顔にはあまり自信が持てない。
何処か殺伐とした表情を鏡で見る度、もっと上手に笑えないものかと、悩んだものだ。
一応、整ってはいるものの、シャアリィのような本当に可愛らしい子を見ると気後れする。
私が眠っている間、シャアリィがずっと抱えている鵺斬。
鮮やかな臙脂色の鞘とは対照的に、その刃は昏く鈍い。
恐るべきは、今まで扱ったどの刀剣よりも重い鋼の密度。
私は本当にこの刀剣の所持者に相応しいのだろうか。
物騒な持ち物と言えば、シャアリィの螺旋杖も凄まじい逸品だ。
まさに魔女の杖と言わんばかりの迫力だが、その造形は近代的。
そして鵺斬とは対照的に恐ろしく軽い。
小柄なシャアリィでさえも自在に振り回せる程に。
周囲の客は奇異の視線を私達に浴びせるが、視線が合えば向こうからそれを外す。
アーシアンに来た頃から、何時も私はそういう視線に晒されてきた。
最初は不満だった。
頭の先から爪先までじろじろと眺められたこともある。
しかし、それにも慣れた。
・・・
日暮れ時。
キャラバンは少しばかり早い停車。
野営に欠かせない枯れ枝集めや、ちょうど良い水場の確保。
快適な野営の為には乗客も手伝いに加わることが多い。
「最近はね、ナセルバの発展のおかげで野盗も少なくなったんだけど、あまりにナセルバに人口が流れちゃうから、新規冒険者章の発行が期間限定で停止になったんだ」
「だから、もしかすると、キャラバンのルートに野盗が増えるかもね」
シャアリィが物騒なことを言った。
自衛のために戦うのなら仕方ないけれど、一応、このキャラバンにも護衛の冒険者がいるのだ。
そう口にすれば、
「以前、冒険者が盗賊団とグルだったことがあってね」
「まぁ、その時も二人で蹴散らしたんだけど」
そういうこともあるのか。
ならば、
「じゃあ、酒を勧められても迂闊に飲めないね」
と、答えると、
「アイシャは、何時も断ってたよ」
「キャラバンに乗る時は、私達は何時も禁酒」
「野営の最中でも、必ず、片方は起きてるよ」
私の考えそうなことだ。
それも数年前ならば、いまより私も少しばかり可愛らしかったのかも知れない。
「だからね、寝袋は何時も一つだけ」
「ナップサックに入っているジンは、消毒とか着火剤に使うものだよ」
旅支度に手慣れていたのも、頷ける。
こうして自身の身体が覚えている様々なことの答え合わせは、なかなかに楽しい。
しかし、本当に私達は随分と近い距離で生きていたのだな、と、実感した。




