最後の冒険
五百三十九年十月十二日。
ザグレブホーン迷宮踏破が認定された。
アイシャ・セロニアス。
シャアリィ・スノウ。
イザベラ・リリィ・シュベルド。
ロザリー・イグシエンヌ。
そして、協力者の名前としてアンソニー・レジータ。
五名の名が刻まれたモニュメントが街の中央公園に設置された。
踏破年金は四パーセントと高額だが、既にザグレブホーンの迷宮に潜る者は数える程しかいない。
踏破報酬の金貨千枚は、パーティに所属した五名で均等に分けられた。
迷宮踏破の証明となったアース・ドラゴンの魔石は領主府が接収。
ソウル・リーパーの魔石には真空斬という物理攻撃スキルが内包されていた。
イザベラはギルドが算定した最低落札価格でアンチ・ブレードの魔石を買い取った。
その額は金貨三千枚、そこにさらに二百枚の金貨を上乗せし、他のパーティ・メンバーはそれぞれ八百枚の金貨を得た。
イザベラとロザリーは、真空斬の魔石の権利を放棄。
シャアリィがそれを受け取った。
アイシャは、この数年の記憶を失っている以外に健康上は問題ない。
ロザリーは新しい銀枠純金十字を授与され、大司教となった。
だが、その身から失われた二十レベルもの経験値、そして瞬間的に刻まれた五年という歳月により、大メイスを自在に操るだけの能力を喪失した。
「最後の冒険に行ってくるよ」
「アイシャを少しの間、お願いね?」
アイシャをイザベラの屋敷に残し、シャアリィは、一人、ザグレブホーンの未踏破玄室に挑む。
・・・
アイシャは確かに傍にいる。
だが、それはシャアリィと出会う前のアイシャ。
何時も申し訳なさそうに、シャアリィの後を追う気弱な少女。
これからどうするか・・・。
話さなければならないことが沢山ある。
マッカーシー・パーティが全滅し、ランドウ・ミヤマが召されたと知れば、アイシャの哀しみは相当だろう。
自分と成した数々の冒険は信じて貰えるだろうか。
レリットランスに家があることや、ザック・パーティとの付き合い、エレナ、ナッチェ、フランコ、アンナ、レオ、ジョンソン、数々の友人たちとの縁。
今は思い出せなくても、何時か思い出す日は来るのだろうか。
そんなことを考えれば、ただ、自分を傷つけたくなる。
「折角、拾った命なのに、私はなんで迷宮に潜るんだろう」
音の無い胸がきりきりと痛む。
その答えを探すべく、シャアリィは玄室の扉を開ける。
運が悪ければ、そこが自分の死に場所。
残り五つの転移陣。
もしも、その先に迷宮がまだ続いているのなら、また、アイシャと共に冒険がしたい。
――― 冬の迫る北の大地。
そこにあるのは『諦めの迷宮』と呼ばれた古代迷宮。
シャアリィは思う。
何かを失う前に諦めることを覚えるべきだった、と。
だが、そうはならなかったし、今すぐにでも引き返すことも出来る。
『好き勝手やって、好き勝手に生きて、好き勝手に死ね』
その言葉を思い出して、ふふっと嗤う。
「ああ、そうさせてもらうよ」
金色の瞳が涙で光った。
氷結のシャアリィ
諦めの迷宮踏破編 終幕 ―――




