混戦
アース・ドラゴンは、上級術式さえ封じれば他のドラゴンよりも弱い。
だが、その体力に限って言えば、どのドラゴンよりも強い。
飛ぶための羽根を持たない代わりに、足は一対、つまり二本、多い。
それは重心の安定と、物理攻撃力を底上げする。
どんな場合でも四本の脚は体勢を維持し、短い首は太く頑強。
腹や気道という弱点を晒さない鉄壁の竜。
だが、その土石龍にすら防げない弱点がある。
『眼球』、『口内』、『鼻腔』
そのいずれかに強力な攻撃を加えたならば、それは脳に届く!
しかし、アイシャの鵺斬も、イザベラのレイピアも、それを成すには短か過ぎる。
土石龍の体格に比すれば、まるで針のようなものだ。
「シャアリィ、テンカウントだ!」
「これだけ暴れてもこの玄室はびくともしない!」
アイシャが砲撃を提案するが、シャアリィはそれを拒否した。
「それは無理!」
「チャージ中に奴の術式が来れば、無事では済まないよ?」
土石術式は見た目は地味だが、その実、凄まじい破壊のエネルギーがある。
初級術式のストーン・バレットでさえ、致命傷になり得るのだ。
「じゃあ、どうする?」
半ば指揮を放り出したアイシャに、イザベラが吠える。
「使える手を探るしかないさ!」
迫りくるドラゴンの左手の攻撃を躱し、その横っ面にシールド・バッシュを叩き衝ける。
ドラゴンの爪が割れ、青い血が飛び散った。
しかし、イザベラの盾も無事ではない。
目に見える程の大きな凹み。
「貫け!」
追い討ちをかけるのは、シャアリィのアース・ランス。
見えない腹に突き刺さる土石槍。
唸り声を上げてアース・ドラゴンがシャアリィを追う。
意を決したアイシャが、アース・ドラゴンの背に飛び乗り、頭部目掛けて走る。
そして鵺斬を逆手に持ち、土石龍の右の眼球を抉る!
激しく身体を揺らしアイシャを振り落とそうとするが、アイシャは全身の力を両手に込め、それに耐える。
土石龍は背中のアイシャを押し潰すべく、地面に腹を晒した。
その瞬間を見逃すシャアリィではない。
「薙ぎ払え!」
気道から顎の直下に至る短い距離をエレメンタル・バーストが貫く。
「ギョギョエエエエエエエエエエィギャゥ」
致命には至らないが、相当の傷を負わせることには成功した・・・。
シャアリィは仕切り直すように距離を離し、アイシャの姿を探すが見当たらない。
土石龍の身体の向こう、血塗れの戦士が横たわる。
「ロザリー!」
「アイシャに治癒を!」
その叫び声で覚醒したかのように、土石龍の背にぎょろりと巨大な目玉が出現した。
その目がイザベラを睨んだ瞬間、イザベラの身体が硬直する!
「石化の魔眼か!」
このまま一撃を受ければ、イザベラの身体は砕け折れる!
シャアリィはイザベラの前にたちはだかり、暴挙に出た。
「トゥエンティ・カウント、チャージ開始!」
十秒でさえ凌げるか危ういこの場面で、捨て身の選択。
アイシャの治癒を終えたロザリーが、イザベラの前に立つシャアリィを守るべく両手にメイスを構える。
「クエイクが来たらお陀仏ね」
「でも、飛び道具なら、凌いで見せるよ!」
若草色の瞳も狂気に染まる。
玄室内に吹き荒れる魔法風は、間違いなく二十カウントの暴風。
巻き上げた瓦礫の竜巻が、まるでシャアリィ達を守るように土石龍の行く手を塞ぐ。
「七・・・六・・・五・・・四・・・三」
真空刃が土石龍の身体に届き、無数の傷を負わせるが、その緩やかな行進は止まらない。
「二・・・一・・・砲撃!」
まるでロザリーが何時も口にする『神のご加護』とやらの力か。
暴挙の二十秒が、破壊に転じた。
自身の身体に比すれば狭すぎるこの玄室で、アース・ドラゴンの逃げ場はない。
距離十メートルという位置から放たれた無慈悲の氷塊が土石龍の上半身、そして背中の目までも瞬時に氷結させ、直後、それは砕ける。
ふらりと揺れて、シャアリィの身体が瓦礫塗れの床に落ちた。




