最後の扉は運次第
翌日、残り一つの玄室。
立て続けに引いた悪辣な魔物とは違い、そこにいたのはラミアだ。
数こそ二十体を越えていたが、乱獲としか言えない戦闘。
アイシャは相当に引きが悪いらしい。
シャアリィが笑いながら、アイシャに玄室選びをさせないように、と、忠告した。
十五階層に残る転移陣は六箇所。
この迷宮の規模はアーシアン迷宮二つ分に相当する程に広大だが、どうにも八階層が一つの区切りであるように思える。
八階層の一箇所を除き、ランダム転移陣はここまでない。
前半と後半を隔てるように存在するならば、十六階層が最終階層ということになる。
六箇所のうち、ロザリーが選んだ転移陣。
どうやら『当たり』の気配が漂っている。
十五階層で踏んだ転移陣は青色であったのに、着いた転移陣は赤色・・・。
その仄かな光は、危険を想起させる発光。
一直線に伸びる通路の先に、ひとつだけの玄室。
アイシャ・パーティの面々は息を飲む。
「どうやら、当たりの気配だね」
イザベラの表情が硬くなる。
ここが当たりだとしても、それを証明する方法は結局、全域踏破しかない。
シャアリィは気楽に、
「じゃあ、行こうか」
と、既に戦闘モード。
いよいよか、と、ロザリーの表情も強張る。
――― その玄室の扉には竜のレリーフが彫られている。
中を見るまでもなく、この規模の迷宮であればいても不思議ではない。
それが、どの龍なのか・・・。
最悪なのは火炎龍だ。
アイシャ・パーティの中で、火炎龍のブレスに耐えられるのはシャアリィだけ。
それは賭けにすら値しない。
では、他の竜ならばどうか・・・。
最悪ではないものの、やはり討伐は困難を極めるだろう。
氷結龍であるならばアイシャ・パーティに分がある。
イザベラ、ロザリーも長い時間、ザグレブホーンで狩りをしているのだから、最高水準に近い氷結耐性は得ているはず。
アイシャが指示を出す。
「中にいるのが、氷結龍か土石龍ならば討伐可能だ」
「風雷龍ならば相当に苦しいが、まだ勝負になる」
「が、火炎龍だけは無理だ」
「火炎龍を引き当ててしまった場合には、皆、転移陣に奔れ」
「いずれ火炎耐性を手にする時まで勝負はお預けだ」
如何にシャアリィであろうと、勝てない相手に挑むわけにはいかない。
ジャミングを駆使したとしても、ブレスは阻めない。
溶解した床、赤熱する壁に囲まれては人間は生存できないのだ。
「さぁ、イザベラ開けてくれ・・・」
「私はどうにも引きが悪いんでね」
アイシャは扉の開封をイザベラに委ねる。
手を翳せば、ゆるゆると二度、三度、扉が揺れて、ゆっくりと開く。
そして、イザベラのサファイアの瞳が捉えた姿は、
「アース・ドラゴン!」
その声に呼応して、シャアリィが玄室に足を踏み入れた。
直後壁から伸びてくる無数のアース・ランス!
「壊せ!」
それをジャミングで打ち砕き、四人が土石龍と対峙する。
龍が二度、三度、首を横に振れば、床が軋みを上げて波打ち四人の足場を崩す。
その刹那、再び、シャアリィのジャミング!
上級術式クエイクをも粉砕し、その瞳には妖しい光、そして口元には禍々しい笑み。
「アイシャ、粉塵ブレスが来たらハリケーンで相殺してね」
アイシャもまた禍々しく笑い、
「ああ、皆、擦り傷くらいは勘弁してくれ」
「呼吸出来ないよりはマシだ」
言ったばかりの粉塵ブレス。
六節詠唱では間に合わず、アイシャが彗星棍を振り回し周囲の空気を撹拌する。
緩和されたとは言え、口と鼻腔に入り込む微細な砂粒の不快感が気道にまとわりつく。
上品ぶっている場合ではなく、面々は砂混じりの唾を吐き出す。
「こりゃ、乙女の天敵だね」
口元を聖衣で覆い、一人難を逃れたロザリーが冗談を言えば、
「ああ、使用人には見せられないね」
と、イザベラも笑う。




