デス・サイスとダガー
ロザリーの恐慌が解け、その目に殺意が宿る。
ソウル・リーパーの狙いはイザベラだ。
音もなくゆらゆらと縦横無尽に玄室を滑るように移動する。
「殺らせるわけにはいかないね」
ふたつの小メイスを構えた殺戮者が、アイシャに代わってイザベラを守る。
「イザベラ、盾を捨てて剣を構えるんだ」
「きみは騎士だろう?」
「そして、私よりも強い!」
ロザリーが背中のイザベラに向かって叱咤する。
アイシャがシャアリィに問う。
「コラプション、いける?」
それは、飛び切り危険な賭けだ。
盾をも両断する鋭さを持つ刃を擦り抜けて、その握り手に触れなければならない。
だが、このまま間誤付いていては、いずれ誰かが斬られる。
「やるよ!」
ほんの一瞬だけ思考したシャアリィが嗤う。
ファントム・ムーブとヴェンジェンスを纏い、一撃必殺を狙う。
アイシャの身体が撥ね、再びデス・サイスと鵺斬が衝突する。
鋼同士が互いの刃を喰いあうようにギリギリと音を立てての鍔競り合い。
「なにっ!?」
刹那起きたのは、ソウル・リーパーの絶技。
渾身の力を込めたアイシャの鵺斬を抑え込む力が一瞬抜け、押し込んだ刃を躱した。
体勢を崩したアイシャにデス・サイスを避ける手段はない。
「させない!」
水平に薙ぐデス・サイスの真下、ロザリーが踏み込み掌底を突き上げる。
軌道を逸らしたデス・サイスの刃は空を切り、再び、膠着状態へと戻る。
刃に触れたロザリーの掌から、紫の煙が漂う。
「腐敗・・・くそ、あの刃、呪いが付与されてる」
ロザリーは最下級の解毒を短縮詠唱するが、腐敗は止まらない。
アイシャが叫ぶ。
「イザベラ!私がロザリーを治療するだけの時間を稼いでくれ!」
両手でレイピアを構えたイザベラが、その声に反応した。
「わかった」
「ロザリーを頼む!」
ソウル・リーパーが、肉のない顔で笑ったように見えた。
その一瞬でシャアリィの感情が噴火する。
腰のダガーを抜き放ち、イザベラと並びソウル・リーパーと対峙する。
「舐めんな、こらぁ!」
一見猪突猛進に見えるが、その動きは明らかにひとつの信念を持っていた。
禍々しく巨大なデス・サイスの刃を、掌よりも少々大きい程度のダガーで受け止めるという。
デス・サイスの持ち手の長さは、シャアリィの身長程もある。
それが何を意味するかと言えば、遠心力、そして圧倒的な先端速度!
「ぐはっ」
アイシャでさえも意表を突かれる程の達人的な刃の制御の前に、小さなダガーは的を捉えなかった。
デス・サイスの先端がシャアリィの腹部に刺さる。
それは致命の一撃・・・裂かれた腹から腸が顔を出し、傷口からは血が噴き出す。
だが、シャアリィの金色の殺意の眼光は妖しく光る。
「捕まえた・・・よ」
ヴェンジェンスの呪いで、デス・サイスの刃に亀裂が奔る。
そして、ソウル・リーパーが刃を引き抜く刹那、シャアリィの指先がデス・サイスに触れた。
「腐れ!」
互いを蝕む腐敗。
だが、シャアリィには次の一手がある!
「治せ!」
激痛を伴う外道の術式、リバース・ボディ。
崩れ往くソウル・リーパーの姿を見届けながら、シャアリィが哄笑する。
「ざまぁみろ!」
「私の勝ちだ!」
床に倒れ伏すシャアリィを襲うのは、耐え難い激痛。
時間を巻き戻すように腹に収まる腸、閉じる傷口。
体中から吹き出す苦悶の汗、そして絶叫。
「ごぉああああああああああああああああ、ふっ、ふっ、ううううぐぁ」
冷たい床をのたうち回りながらも、修復される身体。
垂れ流しの涙で曇る視界の向こう、ごとりと大きな音を立てて魔石が転がる。
アイシャが喚く。
「勝手に相討ちとかしてんじゃない!」
「本当に、もう・・・」
「馬鹿だなシャアリィは・・・」
その言葉にシャアリィは苦笑いしながら、
「相討ちじゃないよ」
「私の勝ちだもん」
と、零して意識を手放した。




