残りの玄室
ロザリーとアルゴの飲み比べは、当然ながらロザリーが勝利した。
なぜ、この世界の聖職者たちは、皆、酒好きなのか・・・と、言えば、教会が酒造所を持っているからだ。
専売ではないものの、教会が作る酒は総じて質が高い。
最初は、市井から寄せられた穀物を無駄にしないために行われていた酒造だが、今では立派な教会の収入源の一つ。
「少しばかり頭が痛いね」
と、ロザリーが言えば、アイシャはブライト・ヒーリングを使った。
なんとブライト・ヒーリングは二日酔いも治せるらしい。
アルゴ・パーティの面々は、今日はギルドに顔を出さない。
あれだけ痛飲すれば、今頃は皆、頭痛で寝込んでいることだろう。
「さて、今日は残りの玄室ふたつ」
「あんまり立て続けに物騒な相手を引きたくはないんだけどね」
イザベラの言うことは尤もだ。
だが、現在調査中の場所は、未踏破領域であり十五階層よりも深い可能性が高い。
それは魔物のレベルからも分かる。
「最低でも単体百三十レベルは想定されるね」
「場合によっては百七十超えも・・・」
アイシャがとんでもないことを口にするが、それは信憑性の高い『予測』だ。
レベル百七十と言えば、最低でも二級竜に相当する。
もし、複数が玄室の中にいれば大惨事だ。
効率よく転移陣を使えば、僅か七回の転移と少々の移動でそんな場所に辿り着いてしまう。
これが、転移陣迷宮の恐ろしさだ。
「じゃあ、開けるよ」
残りの玄室のうち、無造作に選んだ片方の扉にアイシャが手を翳す。
が・・・反応がない。
魔力が足りないのか、それとも波長が合わないのか・・・。
シャアリィが前に出て同じように手を翳せば、扉が動き出す。
魔物の気配はない。
だが、今、四人の目の前には異形の怪物が実在している!
『ソウル・リーパー!』
禍々しい巨大な鎌・・・その姿は物語に登場する死神そのもの。
本能が警鐘を鳴らす・・・この玄室には足を踏み入れるな、と。
だが、その本能が欠落しているシャアリィは既に臨戦態勢で杖を構えていた。
「退路は狭い通路しかない!」
「無茶でも殺るしかないんだよ!」
当然、それは、当然・・・だが、イザベラの脚は竦む。
聖職者のロザリーでさえ、恐怖しているのだ。
否、恐らく、既にソウル・リーパーの術式が発動しているのだろう。
『恐慌』
白毛獅子が吠える!
「死にたくなければ動け!」
「戦え!」
希薄な存在に向けて、その正体を看破すべくシャアリィがアイス・ブラストを放つ。
数十もの氷の礫が、ソウル・リーパーの身体を素通りし、たった一つ、鎌に当たった礫だけが『かつん』と小さな音を立てた。
「実体は鎌だ」
シャアリィがそう叫んだ所で、目の前にいる死神を虚像と割り切るには難しい。
ぎらりと鈍い光を放つ鎌が振り下ろされる。
その正面にはイザベラ。
アイシャが割り込み、鵺斬とデス・サイスが火花を散らす。
「ぐっ、なんだ、こいつの鎌は!」
それが何を意味するのかは、他の三人にはわからないが、アイシャは何かを感じたらしい。
「イザベラ、盾はだめだ!」
「こいつの鎌は盾では止められない!」
更なる絶望がイザベラを打ちのめす。
「盾で受けられないとは?」
瞠目したイザベラが活路を見出すべくアイシャに尋ねれば、
「こいつの鎌は鵺斬と同じ・・・恐らくミヤマのものだ」
「盾は、簡単に両断されるぞ」
恐るべき武具を持った死神。
その手には魔物殺しの刃。




