探索中断
強い敵と戦えば消耗も著しい。
それは体力や魔力だけではなく、気力というものに影響する。
三つの玄室がある通路空間、残りの二つに更なる強敵がいる可能性も高い。
アイシャ・パーティは、その日の探索を中断し地上に戻ることを決定した。
「前回の魔石、今回の魔石、両方とも結構な価値があるね」
と、呟いたのはロザリー。
そう言えば、まだ、北方大教会枢機卿ベネディクトは魔石の蒐集をしているのだろうか。
教皇選抜も終わり、まだ若いワイズリートが椅子を手放すには相当の時間があるだろう。
既に九十才を超えるベネディクトに再び教皇の椅子を得る好機は難しい。
「あと二つも同じようなモノがあれば、皆で分ければいいが・・・」
言い淀むのはイザベラだ。
この四人に関しては、既に十分な財産もあり、対価が金貨数千枚だとしても、そこに明確な理由があるならば、取り分で揉めるようなことはない。
「封印されている術式次第だよね」
と、アイシャが真っ当なことを言う。
結局、このクラスになってしまえば、自分で魔石を使うということを前提に欲しいか否かが決まるのだから。
そう考えれば、シャアリィは術式使いとして、一番魔石に興味を示しそうなものだが、本人は相変わらずのマイペース。
「下手すると屋敷一つ買えるからね」
「んでも、もう家買っちゃったし、船もキャラバンもあるし・・・」
そんな身でよくも冒険などしているものだと、イザベラもロザリーも呆れる。
イザベラは積極的に慈善を行ってはいるが、その問題点もよく知っている。
慈善とは魚を与えることではなく、釣り方を教えるべきなのだ。
そうでなければ、施される側は何時まで経っても変わらない。
「この街は過疎と言われてはいるが、実際には産業も沢山ある」
「農耕も、畜産も、狩猟も、漁業も出来る」
「ただナセルバの方が稼げるというだけだ」
帰りの道すがら話すあれこれは興味深い。
アイシャがイザベラに提案する。
「うちで扱っている魔道動力機関があれば、ナセルバとの交易が活発化するんじゃないかな」
「問題は、ナセルバも当然、それを欲しがること」
「で、財力的にはナセルバが優位だということだけれど」
ナセルバとザグレブホーンが争う火種になりかねない以上、無暗に魔動キャラバンを持ち込むわけにもいかない。
シャアリィが奥の手を出せばと、
「ワイズリートさんを一枚嚙ませればどうかな?」
「名目上、魔動キャラバンは大教会所有にして、教会から各領に貸し出される」
「自分の領のキャラバンをどう運営しようが、他領は文句を言わない」
「そういう感じなら教会も潤うし、各領も発展する」
確かに名案だが、と、ロザリーが口籠る。
「大教会が素直に領主府に貸し出すかね?」
「領主府が素直に商業ギルドに、商業ギルドが暴利を取らずに民間に・・・」
「結局、魔動キャラバンとやらも、利権の温床になるだけでは?」
アイシャは悩ましく、
「そうか・・・そうなれば何のための動力機関かわからないね」
「やっぱり持ち込むならば、マーメイド商会でやるしかないか」
そんなことを喋っている間に、冒険者ギルドに到着。
探索の間に得た魔石とドラゴン・ゾンビィの魔石を鑑定皿に乗せれば、いつも通り、受付嬢が悲鳴を上げる。
「こ、これ・・・何ですか?」
と、問われイザベラが素直に白状する。
「ドラゴン・ゾンビィの魔石だよ」
「なかなか上等だろう?」
言葉を失った受付嬢は、ただ、一枚の伝票を差し出し記入を促す。
それは魔石鑑定依頼の証書。
「そう言えば、前回の魔石の鑑定は完了しているかね?」
と、ロザリーの声で言葉を取り戻した受付嬢が、応接室にどうぞ、と。
ここでは口に出すことも憚られるのだろうか。
応接室に通された四人が聞いた、術式の名前は・・・
『アンチ・ブレード』
対刃防御力八割上昇に加え、物理防御力二割上昇。
防御特化の超絶スキルだ。
恐らく金貨三千枚以上の価値があるだろう。
ロザリーは深い溜息を吐いた。




