初見殺しの奇襲
まるで防御の姿勢のように腐敗竜は身を縮める。
金剛石のように固い骨が軋みを上げてしなり、まるで、このまま卵に返りそうな錯覚さえ起きる。
『めきゃり、ぴきっ、ぱきっ、ぽきん』
身体を構成する骨の表面に皹が走り、細い骨の何本かが折れたようだ。
そして、アイシャだけが次の攻撃を予測した。
「離れて伏せろ!」
「自爆攻撃が来る!」
直後、弾ける腐敗竜の身体、否、身体の表面のみだ。
自らの骨片を使った広範囲弾幕攻撃!
ハーフプレートに盾を持っているイザベラの被弾は左の二の腕に軽い擦過傷。
長袖の聖衣に十分に魔力を通したロザリーは、顔に同じく二つ、三つの擦過傷。
アイシャは、彗星棍で被弾を完全に防御。
だが、シャアリィは最も腐敗竜に近い位置にいたために、ほぼ全身に被弾。
そして、ヴェンジェンスの報復の呪いは、腐敗竜も同時に叩きのめした。
術式や武具での攻撃と呪いは絶対的な差がある。
『全弾必中』
しかも、威力は与えたダメージの倍返しなのだから、腐敗竜も堪らない。
骨格を支える重要な部分の幾つかが崩壊し、左腕は砕け、右脚も行動不能。
だが、それはシャアリィが受けているダメージでもある・・・。
アイシャは何も考えることなく、ただ、シャアリィの回収に奔る。
それを何とか遮ろうと、腐敗竜は動かせる右腕を振るい、アイシャを追撃する。
イザベラが盾を構えたまま、その間に割り込んでアイシャとシャアリィを窮地から救う。
救出を阻止できなかった腐敗竜は、忌々し気に二度、三度、骨だけの尾で床を叩く。
アイシャとイザベラに守られながら、ロザリーが治癒術式を詠唱するが、その効果は発動しない。
「くっ、倒さない限り治癒出来ないね」
「だけど、すぐに死ぬようなこともない」
「奴を片付けるべきだね」
最大火力を沈黙させたまま、アイシャ・パーティは再び、腐敗竜と向かい合う。
「ここからが正念場」
「ロザリー、エンチャントをくれ!」
「シャアリィが寝てるならば、ジャミングで壊される心配もない」
求めに応じてロザリーが、アイシャとイザベラに戦闘補助術式を付与する。
「私が奴の残った脚を砕く!」
「イザベラは魔石を固定している骨を抉ってくれ」
主が行動不能に陥ったクリーチャーは解れて消え、一瞬の静寂の後、イザベラが微笑む。
「私が主役だな」
その美しい瞳は、汚名返上に燃えている。
剣と剣を交差させ、必勝を誓った二人の戦士が列をなし腐敗竜へと突き進む。
最初に叩き衝けられるのは、右脚への彗星棍。
それは囮でありながら、固い外装を失った腐敗竜の骨を砕くに十分な一撃。
床に沈む腐敗竜の巨体を確かめながら、アイシャが叫ぶ絶技の名は、
「迅雷残花!」
繰り返す都度、四度の加速を受け五度目の斬撃は、無双の二十五連撃に等しい。
飛び上がろうと腐った翼を広げるが、それを成すには筋力も魔力も腐敗竜には足りない!
体勢を崩し横倒しになれば、イザベラのすぐ間近にある赤い魔石。
「セヴンス・ピアッシング!」
その鋭い七連撃が悉く魔石周辺の骨を砕き、無造作に転がる深紅の魔石から光が消えた。
飛び退いた二人の眼前で、ごしゃりと大きな音を立て背骨が割れ、ばきばきと肋骨がへし折れ、一際高く天に向けられた尾が、崩壊する腐敗竜の背中に落ちた。
動く骸は、再び現世の理に縛られ、動きを止め、その赤い瞳の光が消える。
それを見計らって、ロザリーがシャアリィを治癒すれば、シャアリィはすぐに身を起こし、痛そうに身体全身をさする。
「くっそ、あの骨蜥蜴、めっちゃ串刺しにしやがって!」
「止め・・・むぅ、終わってるし!」
不満を口にしながらも、その目は笑っていた。
イザベラがシャアリィの手を取って、
「たまには私が主役でもいいだろう?」
と、笑えば、アイシャも、ロザリーも、
「「勿論ですとも騎士様」」
と、最後の一撃を称えた。
イザベラは表情を引き締め、
「まだまだ、こんなのがいるのだろうね」
と、零せば、シャアリィがくるくると回って、
「これはまだ前菜、次はスープ、サラダ、主菜、デザートまで楽しめますとも」
と、侍従の真似をした。




