ドラゴン・ゾンビィ
その魔物は、名有りを除けば最強のアンデッド。
竜という希少種の成れの果て。
生前の獰猛さは死して失ってはいるものの、代償として得たのは無双に近い斬撃耐性。
ゾンビィとは言うものの、その本性はスケルトンに近く、身体の形成は骨格と魔石のみ。
その牙、爪には呪いが付与されており、本体を倒さない限り治癒不能の傷を負わせる。
騎士、剣士、短剣術士、あらゆる刃物使用者にとって天敵。
「ロザリー、聖光の攻撃術式はあるか?」
アイシャの問いに、ロザリーは苦々しく首を振る。
悪魔祓師でもない限り、そんなアンデッド特化の術式を持っている者など、聖職者でも限られている。
「聖剣付与ならば、ある」
斬撃耐性を持つ腐敗竜にどれ程の効果があるかはわからない。
だが、試す価値はある。
「イザベラにそれを使ってくれ」
返事代わりの詠唱がロザリーの唇を震わせる。
「現世に迷いし魂よ、この輝きを恐れるがいい」
「常世に帰れ、さもなくば灰塵と化せ」
「清らかな刃、ここに顕現せん」
「ホーリー・ブレイド!」
象牙色に輝く聖光属性の刃、その能力は三割もの対アンデッド破壊能力。
自身のメイスにそれを使うことが出来れば心強いのだが、鈍器では術式要件を満たさない。
「遊撃戦だ、皆、自分を守ることを最優先するんだ」
怯んでいるイザベラに代わり、アイシャが戦術指揮を執る。
初見でこれを見て、まともでいられるほう異常者だ。
だが、シャアリィとアイシャは、『廃棄の王』という、更に格上の魔人との戦闘経験がある。
「シャアリィ、こいつは『廃棄の王』よりタフだが、強くはない!」
その言葉でシャアリィは冷静に戦術を編む。
「出て来い!」
クリエイト・クリーチャーで、呼び出されたのは四枚の羽根を持つ漆黒の猛禽。
「敵を攪乱し、チャンスがあれば特攻!」
初めて見るシャアリィの術式に、イザベラとロザリーは驚愕する。
「敵推定レベル百五十、行くぞ!」
アイシャの号令で、シャアリィが走り出す。
クリーチャーは腐敗竜の視界を遮るように目の前を鬱陶しく飛び回る。
シャアリィの逆側からアイシャが駆け、彗星棍を竜の右足首に叩き込む。
体勢を崩すように前屈みになった竜の右手がアイシャの視界の外から飛んでくる。
ロザリーは、アイシャの死角を補うべくメイスを構えて右に向かい、イザベラはシャアリィを追うように左に回る。
竜の動きは遅い・・・だが、異様なことに自分たちの動きも、ワンテンポ遅れることに冒険者全員が気付く。
イザベラが叫ぶ。
「こいつ、圧力領域を使うぞ」
耳慣れない言葉に皆が、聴覚だけをイザベラに向ける。
「こいつの周囲は空気の密度が濃いんだ」
「我々の動作も、その分だけ遅れる」
絡繰りを僅か数秒で看破し得たのは、イザベラの日頃の知識の積み重ねだ。
だが、腐敗竜は緩慢な動作からも正確な攻撃を繰り出してくる。
縮めた距離が、何度も戻され、アイシャ・パーティの武具の中では、アイシャの彗星棍のみが現状、唯一の有効打。
ロザリーは、両手のメイスを一つ腰に戻し、カウンター狙いにシフト。
そしてイザベラが吠える。
「私がターゲットを取る!」
「アイシャは存分に削れ!」
サファイアの瞳に迷いはない。
その声にアイシャは手短に返答する。
「頼んだ!」
シャアリィは最悪の展開に備え、
「報復を!」
ヴェンジェンスを詠唱し、押し戻された距離を再び詰める。
巧みなステップで振り下ろされる爪を搔い潜り、腐敗竜の眼下に辿り着いたシャアリィが叫ぶ!
「薙ぎ払ええええ!」
それは閃光の一撃、エレメンタル・バースト。
金属同士がぶつかるような甲高い音が響き、腐敗竜の肋骨のひとつが砕け墜ちる。
イザベラの位置からは、腐敗竜の魔石が露出したのがわかったが、さすがにレイピアでは届かない。
百錬のイザベラを以てしても、飛び道具の類はないのだ。
「ロザリー、あれが見えるか?」
イザベラに問われたロザリーは、大きくステップバックし、イザベラと肩を並べた。
その視線の先にあるのは、目の色と同じく赤く脈動する魔石。
迷いもなく、手に持つメイスを渾身の力で投擲する。
「ヴォオオオオオオォン」
メイスの直撃を魔石に受け、腐敗竜が自身の異常を知らせる音を発する。
禍々しく、どてっ腹に響く衝撃波は、発声器官を持たない腐敗竜の悲鳴。
腐敗竜の右膝が地に落ちる。
だが、左右の爪の猛攻は、まだ止まらない。
否、いっそう激しさを増し、それはパーティ・メンバーの回避速度を上回りつつある。
そして、腐敗竜の突如動きが止まる。




