シャアリィの怒り
「立てる?」
と、誰かが耳元で囁いた。
その声は聞き覚えのある安心出来る声・・・少し舌足らずな声の主。
「シャアリィ・・・」
その名前を呼べば、涙が零れそうになる。
拘束していた縄は解け、自由になった身体だが、力が入らない。
その、すぐ間近でパーシモンが槍を振り回して暴れている。
どうやら目が見えないらしい。
「アイシャ!アンソニーをお願い!」
すぐさま飛び込んできた真っ白な少女が、軽々と自分の身体を担ぎ上げ、屋敷の外へと連れ出してくれた。
「ロザリー、処置を!」
ゆっくりと地に降ろされれば、暖かな癒しの光が身体を包む。
俺の意識は、そこで途切れた。
・・・
「くそう、目潰しとは卑怯者め」
闇雲に槍を振り回すパーシモンの言葉に、シャアリィが可愛らしい声で絶望を告げる。
「あなたは、ここで、もうすぐ死ぬ」
「私に殺されるんだよ?」
「私はとても優しいんだ」
「遺言を聞いてあげてもいいよ」
「まぁ、聞くだけなんだけどさ」
「悪党の言葉なんて、ねずみの声と聞き分ける価値もないからね」
パーシモンは暗闇の中で、
「うるせえ!殺す!何処だ!」
「この槍でぶっ刺す!」
くすっと笑ったシャアリィの声に反応し、渾身の突きを放つが当たるはずもない。
躱したシャアリィの足払いで、無様に転倒させられる。
直後耳に奔る痛み。
「ほら、鳴きなさい?害虫らしく命乞いしなさい?」
言い終わらないうちにダガーの持ち手で鼻が折られる。
「鳴けって言ってるの」
「聞こえない?」
至近距離では槍など役に立たず、パーシモンの手が腰にぶら下がっている鉈に伸びる。
シャアリィは、鉈を掴もうとした指をダガーで切り飛ばす。
「ぎゃああああああ」
「指が!指が!」
蹲るパーシモンの背中を蹴り飛ばし、尚もシャアリィは哄笑する。
「あはは、やれば出来るじゃない」
「もっと、もっと無様に鳴きなさいよ」
「何が殺してやるだ・・・身の程を知れ」
「お前はアンソニーを刺したんだ、じわじわ甚振って殺してやる」
パーシモンが落とした槍を脇腹に突き入れ、ぐじぐじと捩じる。
「やめ、やめて、いだ、だだだだ、助けて・・・」
シャアリィは許さない。
「アンソニーは悲鳴をあげなかったのに、お前は無様だ」
側頭部を爪先で蹴り上げた時、パーシモンが譫言のように呟く。
「リバイバル」
金色のオーラに包まれ、傷が塞がり、体力、魔力が全回復。
だが、それだけ・・・。
千切れた耳も指も元に戻るわけではない。
「お前は殺さない」
「残りの命、闇の中を彷徨え!」
シャアリィはダガーで、パーシモンの眼球を抉り出す。
そして、背中を蹴り飛ばし、燃え墜ちる屋敷から脱出した。
「衛兵さん、あとは宜しく」
振り返ることもなく、シャアリィはアンソニーの元に向かう。
何事もなければと願っていたが、アンソニーの左手からは人差し指と親指が失われていた。
それは、弓術師には致命的な欠損。
「私のせいで・・・」
「アンソニー、ごめんね」
「ごめん・・・ごめんね・・・」
シャアリィは、謝罪の言葉を繰り返すしかなかった。




