水晶の巨人の討伐
三度目のコラプション。
「ギィイン・・・ギギギギギ・・・ギャギャギャギャッ」
まるで悲鳴のような音がクリスタル・ゴーレムの左半身から響く。
「がらん」
と、転がったのは、巨大な左腕の指のない拳。
捻じ曲がってもまだ動きを止めない水晶の歯車が、その開いた隙間から見える。
それは、イザベラ達にとって福音。
ここまでの攻撃が大きなダメージを与えているという証拠。
士気はあがる。
しかし、ゴーレムも又、一段階凶悪さを増す。
黄色い目はオレンジ色となり、透き通っていた水晶が赤く染まる。
それは単体進化。
水晶の巨人はさらなる硬度を持つジュエル・ゴーレムへと変わる。
鋼の武器でも、なんとか傷を入れることが叶っていた身体の硬度が増せば、最早、斬撃によるダメージは期待出来ない。
「ルビー結晶化・・・なのか?」
もしも、最高硬度を持つ金剛石へと変化したならば、打撃でさえも通るかどうか・・・。
ただ一人、シャアリィは赤く染まるゴーレムを見て、喜びの声を上げた。
「どでかい宝石だよ!?」
「ぶっ壊して持ち帰れば大金持ちじゃん!?」
何処までもマイペースな琥珀の魔女に、白毛獅子も、戦乙女も笑声を重ねる。
「「やる気出るね!」」
魔力を温存するように、ジュエル・ゴーレムは、物理攻撃主体へと攻撃を切り替えた。
イザベラは、ただ、それを避け続ける。
時折、アイシャに浴びせられるストンピングも、最早、奇襲ではない。
だが、ただの一度でも喰らえば、即死級のダメージだ。
「束ねし力、四門を巡れ、碧き波動、我が手に宿れ、解き放て、風の礫」
「ウインド・ブラスト」
至近距離からアイシャが術式を浴びせれば、シャアリィも呼応するように、
「散れ!」
アイス・ブラストを撒き散らす。
かなり魔力を消耗しているのか、ゴーレムが氷結することが増え、それを見逃すことなくシャアリィがアース・ランスを叩き込む。
アイシャの魔力枯渇が近い。
イザベラも又、筋力向上に魔力を動員しているために肩で息をしている状態だ。
そして四度目のコラプション。
ついに左脚の破壊に成功する。
床に倒されれば強烈なストンピングも、大質量の叩き衝け攻撃も出来ない。
ただ、手足をばたつかせ、時折、術式を吐き出すだけの石の塊。
アイシャは歓喜に顔を歪めながら、ゴーレムの手が届かない場所から、彗星棍を頭部に叩き衝ける。
十回、五十回、百回・・・宝石を掘り進む鑿の如く、ほんの僅かづつ頭部を破壊してゆく。
イザベラも又、レイピアの先端をゴーレムの腕の傷に捻じ込み抉る。
刃が欠けることもお構いなしに、半透明の歯車を抉り出す。
やれやれとばかりに、シャアリィが一分間の休憩を終え、五度目のコラプションを頭部に込めれば、オレンジ色の目は光を失い、ジュエル・ゴーレムが沈黙する。
最早、三人とも魔力は底を打っている。
この大量の宝石に囲まれながらも、動く気力もない。
・・・
玄室の魔力ロックが解除され、ロザリーとアンソニーがゴーレムの身体に腰掛けてのんびり雑談している三人を見つける。
「クリスタル・ゴーレムじゃなくなってるね?」
と、いうロザリーの声にイザベラが反応する。
「これ、全部、ルビーだよ」
「質はそれほど良くはないが、全部を持ち帰れないのが残念だ」
「というか、多分、ザグレブホーンのルビーの価格、暴落するだろうね?」
「さて、鏖殺のロザリー、きみには仕事が待っているよ」
「我々は皆、魔力枯渇でこの様だ」
「魔石を抉り出してくれないか?」
皆の目が、ロザリーのメイスに注がれる。
「きみの獲物じゃなきゃ、多分、日が暮れる」
「よろしく頼んだよ」
アンソニーは大きめのルビーをナップサック一杯に回収し、シャアリィとアイシャは仲良くチョコレートを齧る。
イザベラは余程疲れたのか、小さな寝息をたて、ロザリーだけが必死で魔石を抉る。
そして、数十分を掛け、ロザリーが抉り出した魔石。
それは紫色の大きな塊。
明らかに術式が封印されていると思しき魔石を手にロザリーが呟く。
「光は闇の中に輝き、闇はこれに勝たなかった」
名有りにも匹敵する魔力の結晶は、とても美しかった。




