死力
クリスタル・ゴーレムのリーチは約三メートル。
足を止めればすぐに追い詰められる。
「シャアリィ、左脚を潰そう!」
アイシャの指示で攻撃の重点箇所が決まり、そこに彗星棍の連打が始まる。
シャアリィは、同じ個所にアイス・ランスとアース・ランスを集中させる。
コラプションの再使用時間は一分・・・その間は、通常攻撃で凌ぐしかない。
再び、ゴーレムが太い腕を回し始めれば、シャアリィはイザベラの援護に回る。
冷たい石畳に突然走る熱気。
「フレイム・グラウンド!?」
それを知覚した瞬間、シャアリィが術式を破壊する。
「壊れろ!」
ジャミングによって破壊された術式。
想定通りの現象が起きなかったことにゴーレムが僅かな戸惑いを見せた。
そして、両腕を振り上げて、床に叩き衝ける。
まるで術式のようにイザベラに向かって一筋の衝撃波が伸びた。
イザベラは身を屈め盾で身体全体を隠すようにして、それに耐えるが、一撃で盾は無残に裂かれた。
「成程、次にアレを喰らえばタダじゃ済まないな」
足元から執拗に一箇所に攻撃を集めるアイシャが鬱陶しくなったのか、ゴーレムが左脚を持ち上げてストンピングを落とす。
その衝撃を相殺するようにアイシャは一瞬、宙に身を浮かせ凌ぐ。
シャアリィは胸元から魔力回復剤を取り出し、一息に飲み干してゴーレムの背中目掛けて駆ける。
そして、再び腐敗の一撃。
「ギィィィイイイン・・・ギギギギギ」
嚙み合わせの悪い開き戸のような音を立てて、ゴーレムの左脚部が軋む。
アイシャから、魔力回復剤を要求されハイタッチのように手渡せば、それを一度胸元に仕舞い、絶技の名を吠える白毛獅子。
「迅雷残花!」
彗星棍を放り捨て、その手にあるのはミヤマの特級刀剣鵺斬。
一度では傷ひとつつかなくとも、二度目には掠れ傷。
三度目には小さな欠片が飛び、四度目は大きく抉る。
そして渾身の五連撃、ゴーレムは一度、大きく左に傾き、その巨大な手で身体を支えた。
すぐにアイシャはゴーレムの背中側に周り込み、魔力回復剤を煽る。
「迅雷残花で足一本捕れないとは、本物の化け物だな」
生薬の残りかすと共に敵への称賛を吐き捨てる。
ゴーレムは身体の向きを変え、アイシャに向けて術式を放つが、シャアリィがジャミングでそれを阻む。
ゴーレムの猛攻に我を忘れかけていたイザベラが、引き裂かれた盾をレイピアで叩く。
「ヘイト!」
だが、あまりに桁違いの攻撃力を浴びせたアイシャへの敵対心は収まらない。
「セブンス・ピアッシング!」
渾身の七連撃を浴びせ、さらに戦乙女が雄叫びを上げる!
「ヘイトォオオオ!」
声が掠れる程の絶叫に、振り向く水晶の巨人。
「そうだ、それでいい!」
再び、イザベラの挑発が始まる。
「サモン・ピクシー!」
必要最低限の補助術式。
先程のシャアリィのジャミングで、その性質に気付いたイザベラは自身へのエンチャントを放棄せざるを得ない。
シャアリィのジャミングなしでは、この狭い空間で十分持たせることは不可能なのだ。
幸いにしてサモン・ピクシーは効果を発揮し、僅かにゴーレムの足取りを鈍らせた。
斬撃耐性、そして魔法耐性、加えて大質量、大魔力。
単体の危険度で百六十を超える水晶の巨人には・・・修復能力もある!
ちりちりと蠢く水晶の欠片が、クリスタル・ゴーレムに引き寄せられる。
残り七分少々・・・。
「磨り潰せ」
ゴーレムの背後から聞こえたのはシャアリィの声。
ゴーレムの修復をみすみす見逃すわけもなく、水晶の欠片を塵へと変える。
アイシャは再び、武装を彗星棍に持ち替え、一心不乱に左脚の付け根を狙って打撃を叩き込む。
イザベラでさえ絶句する、その凄まじい闘争の表情。
思わず見入ってしまう自分に気付き、唇を噛み締める。
(奔れ、敵を引き続けろ、これを倒すんだ)
サファイアの瞳に捉える水晶の巨人は、途方もなく強い・・・。
それでも三人は死力を尽くす。




