水晶の巨人
ロザリーの作成した地図は非常に精巧だ。
恐らくは面倒くさがりで横着なロザリーではなく、旗下の教会騎士が作成したものだろう。
罠は記号だけでなく、必要に応じて注意点が記されている。
そこにアイシャの経験と視力があれば、アイシャ・パーティが罠に引っ掛かることはない。
『落とし天井』
物騒な名前の罠をアイシャが口にして手頃な何かを探している。
ロザリーがメイスの持ち手にワイヤーボルトを取り付け、
「これでやるよ」
と、アイシャに目配せした。
ロザリーが発動フロアにメイスを叩きつけると同時、ワイヤーを素早く手繰る。
直後、頭上から発動フロア目掛けて落ちてくる巨大な天井岩盤。
崩落したかと思うような砂煙に皆が咽る。
「これで直通ルート上の面倒な罠はもうないね」
来るとわかっていれば、イザベラならば支えられないこともないだろうが、それをするには危険過ぎる罠。
元々、転移陣に特化しているザグレブホーンの迷宮には、罠の類は少なく、この落とし天井が最大の仕掛け。
そもそもザグレブホーン迷宮は、他の迷宮と比較しても格段に古い迷宮であり、それを転移陣で守っているのだから、進化した罠など必要ないということだろう。
七層の難所を抜け、目指すは『クリスタル・ゴーレム』の玄室。
シャアリィがメンバーに提案する。
「魔力ロックは十分くらいだっけ?」
「なら、アンソニーは玄室に入らず待機で、ロザリーも同じく待機」
「イザベラはどっちでもいいかな」
「玄室は狭いんだから、なるべく少人数で攻略する方がいいんじゃない?」
無謀とも思える提案に、アイシャだけは頷く。
「そうだね、イザベラが囮になって貰えるなら攻撃の手数は増える」
「アンソニーとロザリーには申し訳ないが、了承して貰いたい」
ロザリーは即答。
「琥珀の秘術が見れないのは残念だけれど、アンソニーの安全を考えれば当然だね」
イザベラは逡巡する。
「囮役は構わないが、二人で壊せるものなのか?」
アイシャが返答する。
「もし、壊せなくても、私達三人ならば、十分を耐えるくらい造作もない」
「私もリバイバルが使えるんだよ」
「シャアリィさえ無事ならば、我々が被弾した所で通過することは叶う」
土壇場で明かされた鬼札に、イザベラは哄笑する。
「ははっ、ははははははっ、本当に化け物だな、きみ等は!」
「まさか、まさか、リバイバルまで手に入れるとは!」
クリスタル・ゴーレムとの戦闘が始まる。
玄室の扉にアイシャが掌を翳せば、ゆっくりと軋みを上げて開く重い扉。
それは、このゴーレムに合わせて特別に誂えたような分厚さ。
中に踊り込む三人の背を再び動き出す扉が遮る。
アンソニーとロザリーは、扉の左右に腰掛けて待機。
直後、迷宮内に響く地響き。
「推定レベル百六十・・・特級クリスタル・ゴーレム!」
アイシャから魔物識別が発せられ、イザベラはレイピアで盾を叩く!
「ヘイト!」
手短かに響く吸引の術式がゴーレムの黄色い眼差しを釘付けにする。
一辺二十メートル程の玄室の中では、逃げられる場所は限られている。
青白く見える程に密度の濃いクリスタルの腕が、ぐるぐると回された。
「術式が来るぞ!」
アイシャの発生と共にゴーレムから放たれるのは、ハイ・ウェイブ。
この狭い室内に圧倒的な水量の水属性質量攻撃術式!
イザベラは直撃を避けたが、引き波に脚を取られる。
「閉ざせ!」
シャアリィがカース・シャドウを放ち、ゴーレムの視界を奪うことで僅かな時間を稼いだ。
だが、その時間はあまりに短く、すぐにイザベラに向かって歩を進めるクリスタル・ゴーレム。
その背後から、シャアリィがコラプションを叩き込む。
「ギィィィイイイン」
クリスタル同士が擦れ合う音。
それはシャアリィのコラプションが、効果を発揮している証拠だ。




