出陣前
二年ぶりの夏祭り。
アイシャ・パーティは女子四名その他一名、明日から迷宮だとしても祭りを楽しむ余裕がある。
アンソニーとロザリーは普段と変わらぬ服装だが、シャアリィ、アイシャ、イザベラは当然、華やかなドレス姿。
イザベラは今年は深紅のスリーピース・ドレス。
珍しく髪を降ろしている。
シャアリィとアイシャは、淡い水色、薄いピンクをそれぞれ選び、当日に間に合うように準備していた。
ロザリーは、イザベラの意見で髪だけはイザベラと揃いに。
聖衣であっても、男たちの目を引く程には華やかだ。
そんなペアの間で、アンソニーは右往左往。
菓子の類を持たされながらも、少しばかり鼻の下を伸ばす。
高台の公園で花火の開始を待ちながら、この夏の収穫の報告会。
夏の間、大剣を振るっていたイザベラだが、迷宮ではやはりレイピアと盾に。
ロザリーは、自分で仕留める必要もないため、取り回しの良い小メイスを両手に持つことを決めた。
「アンソニー、これを貸してやろう」
「量産品だが、なかなかに使いやすい」
「迷宮踏破まで使うといい」
フェアバーンと呼ばれるガードのついた飾り気のないダガー。
短剣職が使うソードブレイカーのような大刃ではないが、その分取り回しに優れる。
アイシャの使っているソレは主に魔石を抉る為のものだが、自衛用の武器としてならば問題はないだろう。
「ありがとうございます」
「遠慮なく借ります」
アンソニーが自分で選んだスティレットは鎧を貫通させるためのダガー故に、魔石を抉ったり、素材を剥がしたりするのには一苦労だった。
現時点で、スティレットを使うようなゼロ距離戦闘は、アンソニーには現実的ではない。
リーチが生かせるフェアバーンの方が正解であることは間違いない。
「シャアリィにダガーの扱いの基礎を教えてもらうといい」
「メンバーの中では、多分、シャアリィがダガーについて一番詳しいだろうから」
・・・
シャアリィはフェアバーンの他にももう一つ、小型のソードブレイカーを持っている。
時にそれは術式媒体としても使用され、対人戦闘ではシャアリィの主力となる。
「まずは持ち方」
「順手と逆手があるけれど、格闘術が出来ないアンソニーは逆手で持つ必要性がないね」
「逆手で持てばリーチが減るし、振り抜くにも動作が大きくなる」
短剣術と体術は密接な関係にある。
「視線は、常に相手の視線と肩のどちらか」
「相手の殺傷範囲は肩から手に持つ獲物の先端までの距離だから、出来る限り、その内側には入らないこと」
「つまり相手の獲物を持つ手の逆側から攻撃を仕掛けること」
「間違っても敵の刃そのものを目で追ったりしないこと」
「次の瞬間には蹴りや拳が飛んできて、あの世行きだよ?」
・・・何十回聞いただろうか、自己流で戦えばすぐに死ぬ、と。
「そんでもって一番大事なこと」
「逃げられるなら逃げなさい」
「ダガーで戦闘するなんて、頭おかしい奴以外には向いてないから」
「二秒の距離・・・つまり十五メートル離せば、アンソニーは弓を一回使える」
「弱腰でいいんだよ?」
「特に魔物相手なら、一撃を防いで逃げる方が絶対にいい」
意外と言えば意外、しかし、当たり前と言えばその通り。
シャアリィはもっとガンガン攻めるタイプかと思っていたが、その逆。
一瞬の勝機を見逃さない狡猾な殺戮者。
「ダガーは、弓使いの副武装の定番だけれど、それはあくまで消去法なんだ」
「アンソニーに筋力があれば、私は鈍器を勧めるよ」
「一見鈍器は即死性に乏しく見えるけれど、戦力を削ぐなら圧倒的に強い」
「ダガーの戦闘で強くなるには、まず、動体視力、んで、体術」
「今はお守り程度だってことを忘れないことね?」
手厳しい意見だが、主兵装の弓ですらまだまだ半人前なのだから、アンソニーはシャアリィの言葉を素直に受け入れる。
「ひゅるるるるるるー」
「どーん!」
花火が始まったと同時、シャアリィは無粋な話をやめて花火を見上げる。
その美しい顔に見入っているのは、アンソニーとアイシャ。
アイシャの手がシャアリィの髪を優しく撫でると、アンソニーはアイシャから渡されたダガーを見つめる。
花火の灯りに照らされては、その直後、暗闇に溶け込む武具。
知れば知る程に底知れないパーティ・メンバーは花火のように美しい。
こんなメンバーと共闘できる機会は、今しかないのだ。
「綺麗だねぇ」
シャアリィが漏らした声が、アンソニーの胸の奥にじわりと沁みた。




