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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
諦めの迷宮踏破編
521/572

出陣前

二年ぶりの夏祭り。

アイシャ・パーティは女子四名その他一名、明日から迷宮だとしても祭りを楽しむ余裕がある。

アンソニーとロザリーは普段と変わらぬ服装だが、シャアリィ、アイシャ、イザベラは当然、華やかなドレス姿。


イザベラは今年は深紅のスリーピース・ドレス。

珍しく髪を降ろしている。


シャアリィとアイシャは、淡い水色、薄いピンクをそれぞれ選び、当日に間に合うように準備していた。

ロザリーは、イザベラの意見で髪だけはイザベラと揃いに。

聖衣であっても、男たちの目を引く程には華やかだ。


そんなペアの間で、アンソニーは右往左往。

菓子の類を持たされながらも、少しばかり鼻の下を伸ばす。

高台の公園で花火の開始を待ちながら、この夏の収穫の報告会。


夏の間、大剣(クレイモア)を振るっていたイザベラだが、迷宮ではやはりレイピアと盾に。

ロザリーは、自分で仕留める必要もないため、取り回しの良い小メイスを両手に持つことを決めた。


「アンソニー、これを貸してやろう」

「量産品だが、なかなかに使いやすい」

「迷宮踏破まで使うといい」


フェアバーンと呼ばれるガードのついた飾り気のないダガー。

短剣職が使うソードブレイカーのような大刃ではないが、その分取り回しに優れる。

アイシャの使っているソレは主に魔石を抉る為のものだが、自衛用の武器としてならば問題はないだろう。


「ありがとうございます」

「遠慮なく借ります」


アンソニーが自分で選んだスティレットは鎧を貫通させるためのダガー故に、魔石を抉ったり、素材を剥がしたりするのには一苦労だった。

現時点で、スティレットを使うようなゼロ距離戦闘は、アンソニーには現実的ではない。

リーチが生かせるフェアバーンの方が正解であることは間違いない。


「シャアリィにダガーの扱いの基礎を教えてもらうといい」

「メンバーの中では、多分、シャアリィがダガーについて一番詳しいだろうから」


・・・


シャアリィはフェアバーンの他にももう一つ、小型のソードブレイカーを持っている。

時にそれは術式媒体としても使用され、対人戦闘ではシャアリィの主力となる。


「まずは持ち方」

「順手と逆手があるけれど、格闘術が出来ないアンソニーは逆手で持つ必要性がないね」

「逆手で持てばリーチが減るし、振り抜くにも動作が大きくなる」


短剣術と体術は密接な関係にある。


「視線は、常に相手の視線と肩のどちらか」

「相手の殺傷範囲は肩から手に持つ獲物の先端までの距離だから、出来る限り、その内側には入らないこと」

「つまり相手の獲物を持つ手の逆側から攻撃を仕掛けること」

「間違っても敵の刃そのものを目で追ったりしないこと」

「次の瞬間には蹴りや拳が飛んできて、あの世行きだよ?」


・・・何十回聞いただろうか、自己流で戦えばすぐに死ぬ、と。


「そんでもって一番大事なこと」

「逃げられるなら逃げなさい」

「ダガーで戦闘するなんて、頭おかしい奴以外には向いてないから」

「二秒の距離・・・つまり十五メートル離せば、アンソニーは弓を一回使える」

「弱腰でいいんだよ?」

「特に魔物相手なら、一撃を防いで逃げる方が絶対にいい」


意外と言えば意外、しかし、当たり前と言えばその通り。

シャアリィはもっとガンガン攻めるタイプかと思っていたが、その逆。

一瞬の勝機を見逃さない狡猾な殺戮者。


「ダガーは、弓使いの副武装の定番だけれど、それはあくまで消去法なんだ」

「アンソニーに筋力があれば、私は鈍器を勧めるよ」

「一見鈍器は即死性に乏しく見えるけれど、戦力を削ぐなら圧倒的に強い」

「ダガーの戦闘で強くなるには、まず、動体視力、んで、体術」

「今はお守り程度だってことを忘れないことね?」


手厳しい意見だが、主兵装の弓ですらまだまだ半人前なのだから、アンソニーはシャアリィの言葉を素直に受け入れる。


「ひゅるるるるるるー」

「どーん!」


花火が始まったと同時、シャアリィは無粋な話をやめて花火を見上げる。

その美しい顔に見入っているのは、アンソニーとアイシャ。

アイシャの手がシャアリィの髪を優しく撫でると、アンソニーはアイシャから渡されたダガーを見つめる。


花火の灯りに照らされては、その直後、暗闇に溶け込む武具。

知れば知る程に底知れないパーティ・メンバーは花火のように美しい。

こんなメンバーと共闘できる機会は、今しかないのだ。


「綺麗だねぇ」


シャアリィが漏らした声が、アンソニーの胸の奥にじわりと沁みた。


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