離脱者
昨日の被害で、パーシモン・パーティから、多くの離脱者が出た。
その瞬間まで言葉を交わしていた者が命を落とすという悲劇を味わったならば、誰が離脱を笑えようか。
『俺だってやれば出来る』
そう思っていた自分が、物言わぬ身とならなかったのは偶然に過ぎないのだ、と。
冒険者というシゴト自体が、本来、途轍もなく危険な行為であると知る。
迷宮踏破、名有り殺し、ドラゴン・スレイヤー、華麗な二つ名。
屈強な身体、魔物を倒す技術、折れない心。
強さは罪だ。
その姿に憧れ、鍛錬に身も心も捧げたとしても、それを叶えられる者は一握り。
一握りだからこそ、眩く、尊く、人を魅了してしまう。
そして知るのは・・・己がソレになるには酷く険しい道程と、なれなかった時の絶望。
パーシモン・パーティは、半数以上を失い、残りは十二名。
クラス1、クラス2の面々は皆、冒険者を諦めることになった。
この世界に存在する数多の迷宮。
そこで毎日のように繰り返される生と死。
若くして、生き残って迷宮から去ることが出来るならば、それは踏破と同じだけの意味を持つ。
毎日を労働によって過ごせば、迷宮踏破よりも多くの稼ぎを得ることが出来るのだ。
迷宮を去るという選択は、決して負け犬ではない。
むしろ、賢い選択。
・・・
大量の離脱者を出した所で、パーシモンの表情に曇りはない。
否、元から明るい表情ではないのだから、知り様がない。
「チャンスは与えた」
「俺には与えられなかったのだから十分だろう」
その言葉が本心かどうかは、誰にもわからない。
まるで何事もなかったかのように、午前十時にパーシモン・パーティは集まり、南門を出て迷宮に向かう。
昨日のような明るい会話はなく、必要以上に言葉を交わさない往路。
「三人一組、四つのチームで攻略を進める」
「ヒーラーは二名しかいないから、二つのチームで共有だ」
「先頭を歩ける者はいるか?」
「全体の安全性を考えて、俺は二チーム目に身を置く」
「殿は、ミアボルト達に任せる」
「術式戦になった場合には、指示はミアボルトが出してくれ」
二日目にして、リーダーのパーシモンが戦術らしい言葉を発した。
・・・
遅れること三十分。
アルゴ・パーティの今日の目標は最初の難関である六層だ。
『斜め通路』という他の迷宮では見られない通路の配置。
それは挟み撃ちの可能性を増す、厄介な地形。
おまけに六層辺りからは徘徊性の魔物も増える。
ここから先、戦闘を回避するにも限度があり、必然、それはマッピングの遅延、探索時間の消耗を意味する。
七階層でマッピングをするならば、当然、迷宮内でキャンプする必要性も出てくる。
「出来れば今日で六階層を仕上げたい所だが、無理は必要ない」
「まずは生存、それより大切なことはない」
広大な迷宮を探索する上で、最も足りなくなるものは時間。
人間が活動するためには、食料も、飲料も必要なのだ。
それを担いで潜るためには、探索範囲が限られる。
・・・
アイシャ・パーティは、今日のオーガ狩りを取り止め、イザベラの邸宅で迷宮攻略のための会議だ。
「我々は最初から八層を目指す」
「どこに飛ばされるかわからない、ランダム転移陣を経験する必要があるからな」
「ロザリー、一つ疑問があるのだが?」
と、イザベラがロザリーに問う。
「実はランダム転移陣の他にも八階層に降りる手段あるだろう?」
「でなければ、八階層より下から戻れない」
「理屈が合わないんだ」
ロザリーは苦虫を噛み潰した表情で答える。
「勿論、あるよ」
「あまり口に出したくはないけれど犠牲を出すことを覚悟するならば」
「私達が何故、たった三回しか八階層より下に潜っていないかと言えば、そいつが玄室を守っているからだよ」
「教会の精鋭部隊でも、魔力ロックが解除されるまでの十分前後の時間、死に物狂いで逃げるしかなかった」
「このパーティならば、アンソニー以外は皆、生き残れるね」
名指しで『死ぬ』と言われたアンソニーは、唾を飲み込む。
『クリスタル・ゴーレム』
シャアリィとアイシャがロザリーの口から出た魔物の名前に瞠目する。
「それは・・・実に物騒な相手だね・・・」
エンダーベルトの巨像島でも、二人がターゲットから外していた鉱物系ゴーレム。
シャアリィのコラプションを複数回使用して、何とか倒せるという特級の魔物。
アンソニーにとって厄介なのは、四人と比較しても、著しく低い回避能力。
逃げ場所の限られる玄室の中で、十分以上もの時間、アンソニーが攻撃を回避し続けるのは、ロザリーの言う通り『死』に近い。




