夕暮れに響く鐘
初日の探索から被害者が出た。
それも当然と言えば当然・・・。
冒険者全員がスキルや術式を持っているわけでもなければ、特別に屈強なわけでもないのだ。
パーシモン・パーティは、クラスも職も不問という言わば雑兵の集まり。
一層であろうとも、敵は魔物。
まだ荷持しかやったことがないような者でも参加出来てしまう。
「すぐに離れろ、ポップだ」
迷宮内では、時折、魔物が自分のすぐ傍に発生することもある。
魔法生物と言われるモノだけでなく、何処かから魔物を召喚する場合もある。
特に召喚された魔物というのは質が悪い。
階層に見合わないような強さの魔物も召喚の対象になるからだ。
一層に、アイス・タウロスなどという強力な亜人が召喚されたならば、その周辺は地獄絵図。
人間の身体の倍程の巨躯、さらに初級術式とは言え、氷結の術式さえも使う。
パーシモン・パーティは、三十人を超える大所帯。
必然、隊列は縦長・・・そして強者は遭遇に備えて前列付近を歩いている。
後方から声があがっても、十メートル以上の距離が離れていれば、すぐに対応できるわけもない。
「助けてくれ」
という短い言葉を残して、クラス1になったばかりの青年が鈍器で撲殺された。
悲鳴を上げて逃げ惑う冒険者を追い回し、転倒すれば、また一人・・・。
パーシモンが駆け付け、ヘイトで吸収するまでに、三名が犠牲となった。
・・・
アルゴ・パーティは焦ることもなく、ロザリーから提供された地図の確認作業。
ベテラン揃いであり、戦闘をなるべく回避しながらの行軍。
脚早に五層に進み、情報の不足していたエリアの確認作業を行う。
既に七層まで進んだことのあるパーティだが、完全に地図を把握しているわけではない。
ロザリーのマップにしか書かれていない部分を入念に埋めてゆく。
戦果は五十程の魔石と幾つかの装備品、そして魔物から取れた素材。
八人パーティは一人金貨一枚前後の実入り。
・・・
アイシャ・パーティは、まだ迷宮に入ることもなく、フィールドでハイランド・オーガを駆逐していた。
それに交じって、今日はベアとボアが一頭づつ。
ベアはジビエとしては、臭みが強く、あまり好まれないが、ボアはオーガにも引けを取らないくらいに上等な肉が手に入る。
素材に関しては、アイシャ・パーティが欲しがるようなものはない。
オーガに比べれば、解体の手間も楽。
上等な可食部位を切り出すために、アイシャがアンソニーに指示を出す。
「皆の方が手際がいいのに、何故、俺が捌くんだ?」
という質問にアイシャが答える。
「ダガーを上手く使えるようになるためさ」
「きみは接近戦になれば、ダガー一本で戦わなくちゃならないんだ」
「面倒で、時間が掛かっても、きみがやるべきなんだよ」
「シャアリィなら、ボアの解体など、あっという間だよ?」
「女の子の腕力でも、きみより上手に出来るのは、技術のおかげだろう?」
そう言われれば、アンソニーは真剣な顔で解体に取り組む。
迷宮に潜るまでに、あと五日しかなく、こうやって丁寧に教えてもらえる時間は少ない。
・・・
それぞれのパーティが、それぞれの狩りを終えて街に戻る。
先日までの閑散が冗談のように込み合う冒険者ギルド。
だが、そこにはパーシモン・パーティの姿はない。
「まだ、パーシモン達は潜っているのか?」
と、イザベラが口を開いた直後、教会の鐘の音が厳かに響く。
ロザリーが、その鐘の音を聞き分け、不機嫌な顔で告げる。
「日没の鐘じゃない」
「誰かトチって死んだ・・・ね」
「・・・三人、か」
受付嬢は魔石を精算皿に取り落とし、もう一度最初から数え始める。
あの『三日月』レイドの悪夢の日から、暫く聞いていなかった鎮魂の打鐘。
これから何度、この重苦しい音を聞くことになるのだろうか。
この瞬間ばかりは、皆、黙祷を捧げる。
――― 正しい人生、正しい死。
そんなものはない。
全ては積み重ねと運に委ねられている。
価値、意味、良い、悪い・・・それを判断するのは生きている者だ。
死は誰にでも平等に訪れる。
冒険者にも、農耕者にも、鍛冶屋にも、漁師にも、聖職者にも。
シャアリィは、また、あの言葉を思い出す。
『好き勝手やって、好き勝手生きて、好き勝手に死ね』
それは生きている者だけに許される特権なのだから。




