奈落への進軍
アイシャ・パーティが探索開始を予告した。
それは、あの日の再来。
大惨劇の『三日月』レイドの時と似ている。
「またしても・・・か」
と、迷宮探索半ばの穏健なパーティに掛かる圧力は相当なものだ。
クラス3のタンクが総崩れして以来、七層より先に進める者はいなくなった。
そこにアイシャ・パーティとパーシモン・パーティが揃って名乗りを上げたのだから、最早、潮時。
黙殺し従来通りの狩りを続けるか、パーシモンのパーティに参加するか。
意外にも選択肢が増えた。
それはクラス3の短剣職、ティガー・アルゴのパーティ・リーダーの名乗り。
自らがタンクの代わりとなり敵の攻撃を集め、その全てを回避しながら戦うという超絶技能。
但し、対術式戦闘は厳しく、その場合にはサブ・リーダーの重装僧侶ロートレック・オーベルクが盾役となる。
アルゴ・パーティの募集はクラス3に限定されるが、それでも攻撃職であれば不問。
こうして、三つ巴の奈落への進軍が始まった。
アイシャ・パーティの始動までは約一週間の猶予がある。
現在、ザグレブホーンに残っている冒険者の殆どが、いずれかのパーティと関わりを持ち、迷宮踏破に向けての探索が加速する。
ギルドから各パーティ・リーダーが招集された。
パーシモン、ミアボルト。
アルゴ、オーベルク。
そして、アイシャとイザベラ。
前回のような惨劇が起きる前に、各パーティで意見交換をし、万全に備えるという趣旨。
フィールドとは違い、ダンジョンでは少しの火種でパーティ同士の衝突も起きるのだ。
冒険者ギルドとしては、何もかもを黙認する訳にはいかない。
「現状の情報の共有を求める」
と、アイシャ・パーティに突き付けられたのは、現在、突出して迷宮の情報を持っているアドバンテージを他のパーティにも渡せ、という、指示。
その情報はロザリーのパーティが命懸けで収集したものだ。
イザベラは荒い鼻息を一つ。
「で、我々が代わりに得るものは?」
少なくとも対価に見合うものを持ち帰らなければ、ロザリーに申し訳が立たない。
だが、現状、情報以上に価値のあるものなど存在しない。
アイシャ・パーティには迷宮攻略に必要な全てが揃っている。
強力な武装、使い手、優秀な斥候、回復役、そしてタンク。
「踏破報酬の二割」
そのくだらない提案に、アイシャもイザベラも苦笑いするしかなかった。
「金貨二百枚?メンバーで分ければ四十枚・・・それは私達にしてみれば、気楽なオーガ狩りでも手にすることが出来る金額だぞ?」
イザベラは、それ以上を言葉にすることをやめた。
ギルドとして出せる最大限の譲歩であり、それを蹴ればギルドと他の冒険者全てを敵に回すことになるだろう。
アイシャも当然、それを理解している。
「イザベラ・・・ロザリーには申し訳ないが、皆、必死で挑むんだ」
「皆の生還率こそが、我々の報酬・・・そういうことで飲んでくれないか」
「私は外の人間だ」
「だが、イザベラはこの街の領民を統治する側にいる」
「きみに汚名を着て欲しくない」
アイシャは言葉では、イザベラに折れるように諭しているが、実際はそうではない。
言葉尻、その口角が吊り上がったのをイザベラは見逃さない。
「よかろう」
「私からロザリーには説明する」
「正真正銘、現状持っている迷宮の地図を公開しよう」
「だが、私達の地図のせいでトチったとか、地図がなければ奥まで進むことはなかったとか、その手の逆恨みは御免被るよ」
「難癖つけるならば、この話はナシだ」
「前回のレイド失敗にしても、準備不足を棚上げに酷い言われようだったからな」
「冒険者ならば、冒険者としての矜持を持ってもらいたい」
ギルド・マスターは、その言葉に頷き、パーシモンとアルゴに問う。
「それで異存はないな?」
異存などあるはずもない。
だが、パーシモンは更なる譲歩を求めてきた。
「クラス2以下の冒険者に装備購入の補助金を出してもらいたい」
最早、アイシャとイザベラは呆れるしかない。
そんなものは雇用するリーダーが出すべきであり、ギルドが負担するなど言語道断。
だが、これだけ衰退しているギルドとしては、その申し出を無碍にすることも出来ない。
「書類を用意させる」
「申請する者は、それを記入し提出させよ」
さすがにアルゴも苦笑は禁じ得ず、
「日頃の準備も出来ない奴らに踏破は無理だろ」
と、呆れた。




