強くなるということ
復活したアイシャ・パーティに一人増えたマスコットのような少年。
既にシャアリィに対する思いは吹っ切れているとは言うものの、やはり、シャアリィとアイシャの尋常ならざる仲の良さには、時折、溜息が出る。
しかし、自分がこのパーティに参加させてもらっているのは、浮ついた感情なんかではない、と、常に自らを叱咤する必要があった。
今日も順当に五十体ものオーガと、一体のスノウ・ウルフを仕留めて冒険者ギルドへと帰る。
自らが仕留めたのは、たった一体。
それでもアイシャ・パーティでは、報酬は均等割。
オーガ十体分・・・つまり金貨五枚もの収入だ。
そこからコンパウンド・ボウや矢の支払いとして、金貨三枚をイザベラに返しても手元には金貨二枚が残る。
しかも、こんな凄い武器の代金が、金貨三十枚だというのだから、たった十日で返済も終わるのだ。
「パーティに参加させてもらった上に、いろいろ良くしてもらって、俺、甘えすぎじゃないかなって」
夕食の席で、アンソニーが吐露すると、アイシャが笑う。
「まぁ、普通はこうはならないよね」
「荷物持ちでも、炊事係でもやると言っても、私達のほうが荷も担げるし、料理も上手い」
ロザリーも辛辣だ。
「正直な所、同情九割、興味一割だね」
「強い武器を持ってわかっただろう?」
「意味のない努力なんて報われないということが」
イザベラも又、
「その通り」
「強くなる方法は鍛錬ばかりではないよ」
「人脈、知識、考え方、そして報われる努力」
「闇雲に弦を引いた所で、それが身になるのには時間が掛かる」
「きみの武具だって、明日には壊れるかも知れない」
「金は稼げる時に稼いで、備えることも必要なんだ」
シャアリィは一人、マイペース。
「このテーブルが少しばかりおかしいだけだから、美味しいお酒を飲みなさいな」
「こんな美少女に囲まれて、幸せでしょ?」
確かに皆、見るだけならば、美人、美少女に間違いない。
だが、自分達が猛獣であることを隠そうともしないパーティ・メンバーたち。
美味しい酒でもアンソニーが酔えるはずもない。
「皆のように強くなるにはどうしたらいい?」
と、アンソニーが率直に尋ねれば、イザベラが微笑む。
「その漠然とした問いから、少しばかり奥に踏み込むことだ」
「脚運びを上手くするには、体幹を鍛えるには、早く矢を番えるには、無理のない姿勢で撃つには・・・そのひとつひとつがきみを強くする」
「強くなる方法は無限だ」
「だが、すぐに効果の期待できる方法は少ない」
かつてアイシャがイザベラやロザリーから学んだように、今、アンソニーは強くなるということを学んでいる。
「こうして酒を酌み交わしながらでも、強くなれるのさ」
数日前、自分が言った言葉が滑稽に感じる。
最初で最後の夢?
夢を語る程、自分は何もやっていなかっただろうに。
アンソニーは、麦酒を煽り、パーティの面々を見やる。
こんなに近いのに、今はまだ、果てしなく遠い存在。
自分が今、やるべきことはなんだろうか。
「済まない・・・用事を思い出した」
アンソニーは、じゃらりと多めに銀貨を積み、席を立つ。
あと数時間ならば、矢を番える練習が出来るだろう。
振り返らず店を出る背中に、ロザリーが呟いた。
「神のご加護があらんことを」




