旧世界の弓
「成程ね・・・」
ロンバルトはイザベラに依頼されていた旧世界の弓を制作した。
そして、その驚異的な構造に気付く。
弓の両先端部分近くに備えられた更待月型の滑車。
そして二つの滑車に巻かれたワイヤーは、使用者の負担を軽減する。
『コンパウンド・ボウ』
弦を引き切ってしまえば発射直前の状態を維持する力は三割程度に抑えられる。
それが何を意味するかと言えば、正確な照準と矢の威力の向上。
ロンバルトの試作品ですら、その有効殺傷射程は百メートルにも達する。
「これなら、オーガの頭蓋だって胸板だって貫通しちまうな・・・」
通常の冒険者が使う弓の実に四倍もの威力。
それだけの威力のある武器。
当然、弱点もある。
複雑な構造故、従来の弓よりはかなり壊れやすい。
そして、何より使い手自身では修理が出来ない。
その材質は軽く固いという魔法のような特殊合金。
つまりは、現状、この弓を作れる職人は、ロンバルト・ジョンバルト唯一人。
「気持ち悪い弓」
ロザリーは、コンパウンド・ボウを見て、そう呟いた。
確かに弓のカタチはしているが、二重、三重に複雑に巻かれたワイヤーは蛇が絡みついている様子にも似ている。
アイシャは訝し気に自らの手で弦を引いてみる。
その瞬間イザベラがアイシャに注意を発する。
「空撃ちは厳禁だ」
「保持力を抵抗なしに解放すれば、弓が壊れる!」
アイシャは引いた弦をゆっくりと戻す、が、一定の位置を越えた時、急激に弦の重さが増す。
危うく指を放しそうになったが、なんとか空撃ちせずに済んだ。
「成程・・・滑車が真円でないことがミソなのだな」
「そして、二つの滑車が互いに引き合うことも・・・こんな仕組み、よくも考えるものだね」
イザベラが旧世界の武器だと言えば、アイシャも納得した。
「弓なんて、よく撓る木に弦を絡めるだけだと思っていたが・・・」
「とんでもないね」
そして、コンパウンド・ボウが所有者のアンソニーに渡される。
イザベラが目に付いた手頃な木に目印を付け、
「まずは、二十五メートル」
シャアリィが約五十センチの歩幅で飛び跳ねて、
「この辺だねー」
と、足場を決めると、アンソニーがそこから目印目掛けて一本の矢を放つ。
直径四十センチ程の頑丈な楓の木の中心に矢が刺さり、その先端は貫通していた。
鏃もロンバルト作・・・貫通型。
もう一つの鏃、残留型もアンソニーのベルトホルダーには収納されている。
「うわ・・・これならオーガの頭だってぶち抜けるじゃん」
コンパウンド・ボウの威力をシャアリィが絶賛する。
「くれぐれも、仲間の背中に当てるなよ?」
イザベラの一言で、パーティの面々が顔色を悪くする。
アンソニーは表情を引き締め、
「一日も早く使いこなせるように鍛錬します」
と、震える手でイザベラと握手を交わした。




