最弱のクラス
夏祭りまでの間、シャアリィとアイシャはイザベラ達のオーガ狩りに付き合う。
と、いうものの以前のような大量殺戮をするわけではない。
あくまで主体は農場周辺。
経済圏に被害を出さないくらいに狩れば良いだけのこと。
四人にしてみればピクニック。
だが、同行するアンソニーにしてみれば、当然、ハードルは高い。
弓でオーガを倒すには、相当の実力がなければ不可能だ。
皮膚の薄い喉元、或いは眼孔や開いた口を一撃で撃ち抜く必要がある。
弓という武器の特性上、矢を放った直後は無力。
次弾を装填し、再び狙いをつけ、矢を放つまでに掛かる時間は最低でも二秒は必要だ。
オーガにとっての二秒は、その巨体であっても距離十五メートルを縮める時間。
正確に的を射抜く射程が二十メートル未満であれば、次撃は間に合わない。
故に単独行の弓兵には、オーガ討伐は不可能だ。
それでも敢えて同行させる理由。
半分は、アンソニーに迷宮探索を諦めさせる為。
もう半分は、その逆。
自分なりに弓兵とはどのような戦いをするべきかを学ばせる為。
「さて、アンソニー」
「正直に言おう」
「長射程から先制で攻撃可能な弓兵が強いのは、人間相手の戦に限られる」
「魔物を相手にする場合、弓兵は最も弱いクラスだ」
「それを理解しているか?」
イザベラが厳しい口調で、アンソニーに告げる。
「まず、命中性・・・クラス2であれば、恐らく九割といった所か」
「それだけでも、きみは十回の戦闘で一回死ぬ」
「次に連射性・・・確実に一撃で仕留めなければ、二秒間の空白で死ぬ」
「さらに継続性・・・矢を撃ち尽くせば死ぬ」
死ぬ、死ぬ、死ぬ、と、三度も言われれば、さすがに凹む。
だが、それは全て正しい。
「では、どういう戦いをするべきか」
「一つは、強敵相手に単独行をしないこと」
「一つは、止めを刺すよりも、敵の戦闘継続能力に被害を与えること」
「一つは、弱い矢を強くすること・・・つまり毒や加工された鏃で継続的に被害を与えること」
アンソニーは言われて初めて気付く。
「では、オーガを発見した場合、きみの行動は?」
イザベラに問われ、アンソニーが答える。
「タンクの吸引を待ち、最も当てやすく効果が期待できる肩や腿に対して射撃する」
イザベラはにやりと笑い、
「それでいい」
「自分が止めを刺すことは考えなくてもいいんだ」
・・・
安全圏から、ただ敵を弱体化させるための攻撃をする。
心に描いていた英雄とは、全く違う戦闘のカタチ。
それでもアンソニーは、イザベラの指示に従う。
この女は強い、賢い、そして経験値が凄い。
当たるか、外れるかの狩りが、当ててどれだけ戦闘能力を奪うかという狩りに変貌する。
その効果が実感出来た時には、パーティメンバーとして役に立っている歓喜がある。
「街に戻ったなら鍛冶屋に付き合い給え」
夕暮れ、いつも通りの戦果を挙げたイザベラが、アンソニーに声を掛けた。
「きみの力不足を補うには、少々、投資が必要だ」
「追々、返してもらえば構わない」
「まずは私が立て替えておこう」
イザベラに連れられて、ジョンバルド兄弟の鍛冶屋。
「丈夫な金属矢に、少々えげつない返し加工をした鏃を付けて二百本程くれ」
「それと、アレだ・・・この前渡した写本の中にある弓」
「こんぱうんど・ぼう?だったかな」
「作って貰えるか?」
ロンバルトが、イザベラに耳打ちする。
「お嬢の新しい下男か?なかなかの色男じゃないか」
「少々細っこいが、いい目をしてる」
イザベラは役者のように笑い、
「残念ながら、彼は迷宮探索メンバーだよ」
「まだまだ戦力とは言い難いがね」
「だが、見込みはある」
イザベラの意外な一言にアンソニーの身が引き締まる。
見込みがある・・・この街の最強の冒険者が、自分にそう言ったのだ。
心に火が灯る。
もっと強くなりたいと。




