アンソニー・レジータ
自分は特別だと思っていた。
幼い頃から友達に囲まれて、その中でも何時だって自分は主役だった。
沢山のフルーツドロップの中にある、ほんの少しだけの薄荷飴。
クールで大人びた味。
周りの子供より、自分のほうが足が速い。
そして絵を描くのも上手で、物覚えもいい。
でも・・・それは長く続かなかった。
九つを過ぎる頃には、一番ではなくなり、友達は次々と自分を追い抜いてゆく。
基礎学校を卒業する十二才の春には、もう、取柄と呼べるものはなかった。
「アンソニー、特別じゃなくてもいいさ」
「お前は俺達にとって、たった一人の息子なんだから」
両親の言葉が自尊心を傷つけ、弱音が心を満たしてゆく。
どこにでもいる、特別じゃない存在。
もしも、また、特別になれたならば・・・。
漁師なんて特別じゃない。
俺は冒険者になって、特別な存在になりたいんだ。
盾は重く、魔術の才もなく、剣は言うことを聞かず、槍は振り回すことさえ難しい。
消去法で選んだ弓・・・その弦は固く、何度も指の皮膚を抉った。
特別であることを諦めれば楽になれる。
否、いつでも投げ出せるなら、まだ、もう少しだけ。
初めて努力というものをして、初めてそれが実った時、少しばかり自分が誇らしかった。
矢を番え、弦を引き、水平、垂直、距離、それが自分の目論見と重なった瞬間に指を放す。
ほんの僅かに放物線を描き、的に矢が刺されば良し。
だが、現実の的は動く、そして反撃もする。
一撃で仕留めるには、自分の弓は弱く、矢は軽い。
生き残るためには、敵を観察し、音を聞き分け、素早く対処しなければならない。
そして、あの日。
特別な存在が目の前に現れてしまった。
端正な顔立ち、柔らかな金色の髪、均整のとれた体格、そして驚異的な強さ。
自分の弓の半分にも満たない小さなワンドから致命の術式を生み出す少女。
天使の外見と悪魔の力が一つの身体に宿るシャアリィ・スノウ。
魅了され、心奪われた鮮やかな殺戮の舞踏。
同じ時間を共有し、思い知らされる。
どうして、こんなにも世界は不平等なのか、と。
しかし、やがて知る。
世界が不平等なわけではなく、自分が方法を見つけられずにいただけなのだ。
悔しいという感情が、こんな自分にも残っていた。
特別になりたいなどという幻想を壊す時が来た。
今、試されている。
本当に命を賭して迷宮に潜る時なのか。
まだ、ずっと鍛錬を続けるべきなのか。
わかっている。
どれ程、自分が未熟で愚かな選択をしようとしているのかくらい。
見落としひとつで死んでしまう。
そんな冒険をしたい、それは本心かと突き付けられている。
でも、もう止まれない。
これは自分にとっての分岐点だ。
アンソニー・レジータは、金色の瞳に答える。
この冒険こそが、自分の願望だと。
少女は一瞬だけ悲しい目をした後、口元を歪める。
「生きて為し果せたなら自慢できるね」
と。




