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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
諦めの迷宮踏破編
509/571

魔動キャラバン開通

五百三十九年五月一日。

ついに流通に革命を齎す日が来た。


『魔動キャラバン一号車』


二頭立て馬車キャラバンの倍以上の速度、積載量を誇る唯一無二の魔道動力車。

グリーンノウズとレリットランスを僅か六日で疾走する高速車両。

既に二号車の動力機関も発注済み。

アーシアン連合国南西部は、これから流通の大動脈として発展する。

レリットランスの販売店で成果を挙げているキンバリーは、早々に支配人に格上げされた。

シャアリィとアイシャは投資した金額を既に回収。

マーメイド商会はレオパルドの元で、驚異的な成長を続けている。


エンダーベルトにも、ちらほらと移住希望者が現れた。

まだまだ大きな利益とは言い難いながら、ヴィルテは移住者の中で地場産業に就職する者に補助金を出し、定着を後押しする政策を行う。

そして、まだあまり開発の進んでいないローマン島を本格的に開発する計画を立ち上げた。

衰退する古い漁業から、魔道動力をふんだんに取り入れた新しい船の開発も同時に。

シャアリィとアイシャが始めた事業は、こうして、様々な場所、様々な取り組みを刺激した。


そして本人たちはと言えば・・・


「迷宮が懐かしいね」


と、シャアリィが不穏な発言をする。

最近ではすっかり令嬢スタイルで自堕落な日々を送る二人。

ファイヤー亭を冷やかしたり、エドワードの治癒院を訪れてみたり。

自宅に家具を買い揃えて、当然のように生活魔具も全て購入済み。


たまに魔動キャラバンに乗ってフランコ邸を襲撃したり、レオパルドとの会食を楽しんだりと、優雅な生活を満喫している。


目下、シャアリィとアイシャの仕事と言えば、年に数回の魔石採集のみ。

それだけで増え続ける資産。


「・・・最近さ、チョコがあんまり美味しくないんだよね」


・・・シャアリィが不意に零した言葉。

実はアイシャもそう感じていた。

贅沢しているわけでもなく、普通に生活しているのに。

ナニカが抜け落ちてしまったように、時折、ぼうっとしてしまう。


「冒険者症候群・・・かもね」


レオパルドが、その答えを示した。

どうやら二人は病気らしい。

思えば、何時も無謀とも言える挑戦の連続、それが今はすっかり穏やかな毎日。

燃え尽きてしまったのだ。


「私がそうであったように、きみ達も又、追い求めるものが必要なんだろう」


アイシャは腑に落ちる。


「成程、多分、それだ」

「人間とはつくづく不便なイキモノだな」

「満ち足りた生活が我慢できないとは、贅沢にも程がある」


二十才そこそこで聖金貨百枚(十億円相当)もの資産。

もう何もしなくても生きていけるとなれば、心も錆びる。


「あはは、じゃあ冒険に出なくっちゃね」

「万一、死んじゃった時に備えて遺書書いてさ」


シャアリィが巫山戯たように言うが、その瞳は輝いている。

アイシャも溜息交じりに同意する。


「私達は何処まで行っても業が深いね」

「じゃあ、レオ、そういうことだ」

「私達が死んだ時には、商会に全額寄付しよう」

「但し、エドワード、アレックス、オルチェの求めがあれば、助けてやって欲しい」


フルートグラスのスパークリング・ワインを掲げ、


「新しい旅に」

「冒険狂いに」

「迷宮に」


それを飲み干して、シャアリィとアイシャはレリットランスの商業ギルドに向かう。

そこにあるのは、勿論、冒険のための装備品。


こうして、二人の冒険が再開した。


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