魔動キャラバン開通
五百三十九年五月一日。
ついに流通に革命を齎す日が来た。
『魔動キャラバン一号車』
二頭立て馬車キャラバンの倍以上の速度、積載量を誇る唯一無二の魔道動力車。
グリーンノウズとレリットランスを僅か六日で疾走する高速車両。
既に二号車の動力機関も発注済み。
アーシアン連合国南西部は、これから流通の大動脈として発展する。
レリットランスの販売店で成果を挙げているキンバリーは、早々に支配人に格上げされた。
シャアリィとアイシャは投資した金額を既に回収。
マーメイド商会はレオパルドの元で、驚異的な成長を続けている。
エンダーベルトにも、ちらほらと移住希望者が現れた。
まだまだ大きな利益とは言い難いながら、ヴィルテは移住者の中で地場産業に就職する者に補助金を出し、定着を後押しする政策を行う。
そして、まだあまり開発の進んでいないローマン島を本格的に開発する計画を立ち上げた。
衰退する古い漁業から、魔道動力をふんだんに取り入れた新しい船の開発も同時に。
シャアリィとアイシャが始めた事業は、こうして、様々な場所、様々な取り組みを刺激した。
そして本人たちはと言えば・・・
「迷宮が懐かしいね」
と、シャアリィが不穏な発言をする。
最近ではすっかり令嬢スタイルで自堕落な日々を送る二人。
ファイヤー亭を冷やかしたり、エドワードの治癒院を訪れてみたり。
自宅に家具を買い揃えて、当然のように生活魔具も全て購入済み。
たまに魔動キャラバンに乗ってフランコ邸を襲撃したり、レオパルドとの会食を楽しんだりと、優雅な生活を満喫している。
目下、シャアリィとアイシャの仕事と言えば、年に数回の魔石採集のみ。
それだけで増え続ける資産。
「・・・最近さ、チョコがあんまり美味しくないんだよね」
・・・シャアリィが不意に零した言葉。
実はアイシャもそう感じていた。
贅沢しているわけでもなく、普通に生活しているのに。
ナニカが抜け落ちてしまったように、時折、ぼうっとしてしまう。
「冒険者症候群・・・かもね」
レオパルドが、その答えを示した。
どうやら二人は病気らしい。
思えば、何時も無謀とも言える挑戦の連続、それが今はすっかり穏やかな毎日。
燃え尽きてしまったのだ。
「私がそうであったように、きみ達も又、追い求めるものが必要なんだろう」
アイシャは腑に落ちる。
「成程、多分、それだ」
「人間とはつくづく不便なイキモノだな」
「満ち足りた生活が我慢できないとは、贅沢にも程がある」
二十才そこそこで聖金貨百枚(十億円相当)もの資産。
もう何もしなくても生きていけるとなれば、心も錆びる。
「あはは、じゃあ冒険に出なくっちゃね」
「万一、死んじゃった時に備えて遺書書いてさ」
シャアリィが巫山戯たように言うが、その瞳は輝いている。
アイシャも溜息交じりに同意する。
「私達は何処まで行っても業が深いね」
「じゃあ、レオ、そういうことだ」
「私達が死んだ時には、商会に全額寄付しよう」
「但し、エドワード、アレックス、オルチェの求めがあれば、助けてやって欲しい」
フルートグラスのスパークリング・ワインを掲げ、
「新しい旅に」
「冒険狂いに」
「迷宮に」
それを飲み干して、シャアリィとアイシャはレリットランスの商業ギルドに向かう。
そこにあるのは、勿論、冒険のための装備品。
こうして、二人の冒険が再開した。




