相思相愛の逸脱者
リーシャは、振り返る。
今もまざまざと心に刻まれている、集落を出された日の記憶。
「私はいらない子」
セロニアスとしての価値もなく生かされた十年の月日。
人間としての価値をも否定された一年。
そして聖女となるために与えられた痛みばかりの二年。
私はなんのために生まれたのだろう、か。
女でありながら、子を産めぬ身体となり果て、何を望むの、か。
「聖女」
いまさらながらに、その意味を考える。
ショット・ワイズリートは、自分の全てだ。
そのワイズリートに望まれれば、痛みさえも歓喜に変わる。
気付く。
自分は世界にとっての聖女ではなく、ただ一人の男の野望の道具である、と。
どんなに綺麗な言葉で取り繕ってみた所で、事実はそれだけ。
だからこそ、この結果も当然だった。
「拒絶」
この世界の秩序は、リーシャが聖女になることを拒絶した。
手に掴もうとした白く輝かしい聖なる光は、触れた瞬間に弾けて消えた・・・。
「ショット・・・私は聖女になれなかった」
「私の世界から、あの栄光の光が消えてしまった」
「なんのための時間、なんのための痛み・・・済まない」
「こんなことになるなんて、私はどうすればいい・・・」
ワイズリートは、リーシャの細い指先を自分の頬に当てる。
「悲しむ必要はないよ」
「否、その悲しみも、痛みも、全て報われる」
「私が望むのは最強の術式使い」
「それを目指すならば、死霊術式こそが最適な選択なんだ」
そう、ワイズリートは知っていた。
リーシャが白き聖女になれないことなど、最初から知っていた。
「何故・・・私に教えてくれなかったの?」
「否、そうじゃない・・・私が愚かだっただけか」
「私は・・・穢れを選ぶしかない、ん、だね」
首肯。
「その絶望さえもが、きみの力へと変わる」
「私を恨んでもいい」
「よくも騙したな、と、罵ってもいいさ」
「だが、私はきみを放しはしない」
リーシャは再び、魔石を手にとって魔力を吸い上げる。
「ひとでなしの外道」
「どうして・・・こんなひとを好きになってしまったのだろう」
「私は本当の愚か者だな・・・」
「・・・いいさ、一度は全て諦めたんだ」
「ただの道具でも、なんでも、いい」
「最後まで付き合うことに異存はない」
閉じた目から血の雫が流れる。
沈んでゆく・・・昏い泥の中に・・・手足も動かせぬままに。
サンダルウッドの香り・・・『死』の気配。
逆光で反転する世界の中、身体を失う幻。
そして、緩やかな浮上。
「ひとつめの術式・・・カオス・フレイム」
「全てを焼き尽くす地獄の業火」
「この魔石全てを平らげて、お前の望み通りの騎士となろう」
ワイズリートは、哄笑する。
「そうさ、それでいい、私はきみを愛している」
「きみを最強にするためなら手段は選ばない」
「墜ちるならば共に!」
受難の聖女。
リーシャ・セロニアス・アビス。
希代の天才。
ショット・ワイズリート。
二人の時代が幕を開けた。




